レイフ・セーゲルスタム

フィンランドの異才、レイフ・セーゲルスタム（Leif Segerstam, 1944年 3月2日 - 2024年 10月9日）は、世界的に活躍した指揮者であり、驚異的な多作を誇る作曲家です。フィンランドのヴァーサに生まれ、母語はスウェーデン語でした。彼の半世紀以上にわたるキャリアは、クラシック音楽界に独特な影響を与えました。

経歴と活動

セーゲルスタムはヘルシンキのシベリウス音楽院で学び、その後ニューヨークのジュリアード音楽院に進んで研鑽を積みました。卒業後、ヨーロッパ各地で指揮活動を開始。ウィーン国立歌劇場をはじめとする主要な歌劇場やオーケストラに客演する一方、ドイツのラインラント＝プファルツ州立フィルハーモニー管弦楽団などで長年にわたり常任指揮者のポストを務めました。その幅広いレパートリーは、シベリウスに代表される北欧音楽から、マーラー、ベルクといった後期ロマン派・現代作品、さらにはワーグナーやプッチーニのオペラに至るまで多岐にわたりました。自作を含む数多くの録音も精力的に行っています。

指揮活動と並行して、作曲家としても非常に活発でした。特に交響曲の数は膨大で、ハイドンをはるかに凌ぐ300曲以上を作曲しました。これらの多くは特定の委嘱によるものではなく、彼自身の内的な衝動に基づいて生まれたものです。セーゲルスタムは自作の交響曲をしばしば自身が指揮するコンサートで取り上げました。

独自の演奏スタイルと作風

セーゲルスタムの交響曲の演奏は極めてユニークなスタイルで行われることが特徴です。指揮者台に誰も立たず、コンサートマスターが演奏中にオーケストラへ指示を出し、セーゲルスタム自身はオーケストラピアノを担当しながら演奏を導くという手法が知られています。この革新的なアプローチは、「指揮者のいない空間」を生み出すことを意図したとされています。これらの演奏の様子はYouTubeなどの動画サイトで多数公開されており、誰でもその実態に触れることができます。

作曲面では、特に膨大な数の交響曲において、記譜法に特徴が見られます。初期の作品では全てのパートが明確に記譜されていましたが、晩年に近づくにつれて、鉛筆書きによる判読が困難な部分を含む「オープンスコア」の手法を用いるようになりました。これにより、演奏における自由度や不確定性が意図的に導入されています。しかし、この不確定性があるからといって、全体の和声や旋律が演奏ごとに大きく変化するわけではありません。ピアノの前に座るセーゲルスタム自身、あるいはコンサートマスターが、適切なタイミングで次のセクションへの移行を指示することで、音楽全体の進行をコントロールしました。管弦打楽器は自由に扱われる場面がありますが、常用される奏法が多いため、たとえ音量が大きくなっても、音楽が騒音と化すような「騒音主義的」なものではないと評されています。多くの場合、編成は2管編成が採用されています。

セーゲルスタムの楽譜の多くは、スタンプで一部が覆い隠されたPDF形式でフリーダウンロードが提供されていました。ただし、これは私的な印刷や閲覧、研究のみを目的としており、公の演奏に用いる場合はフィンランド音楽情報センターからの正式な許可が必要でした。

教育者として

教育者としても優れた才能を発揮しました。故国の名教授ヨルマ・パヌラの後を継ぎ、母校であるシベリウス音楽院の指揮科教授として多くの後進を指導しました。彼の下からは、サーシャ・マキラやピエタリ・インキネンといった現在国際的に活躍する指揮者たちが育っています。

音楽監督として

1995年から2007年にかけては、ヘルシンキ・フィルハーモニー管弦楽団の音楽監督を務め、オーケストラの芸術的水準向上に貢献しました。退任後も名誉客演指揮者として、同楽団との良好な関係を保ちました。

作品リスト（一部）

彼の驚異的な創作活動は、交響曲のみならず多岐にわたります。

交響曲：343曲
小交響曲：30曲
弦楽四重奏曲：30曲
ヴァイオリン協奏曲：13曲
チェロ協奏曲：8曲
ヴィオラ協奏曲：4曲
* ピアノ協奏曲：4曲

これらの作品リストは彼の創作意欲の強さを物語っています。

私生活と晩年

私生活では2度の結婚を経験し、5人の子供をもうけましたが、後に離婚しています（末子は彼が55歳の時に誕生しました）。

レイフ・セーゲルスタムは2024年 10月9日、80歳でその生涯を終えました。彼の死去は、唯一無二の個性を持った音楽家を失ったことを意味し、クラシック音楽界に惜しまれています。指揮者、作曲家、教育者として多角的に活動した彼の功績は、今後も長く語り継がれるでしょう。

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