レオ・ドリーブ

クレマン・フィリベール・レオ・ドリーブ

フランスのロマン派を代表する作曲家、クレマン・フィリベール・レオ・ドリーブ（Clément Philibert Léo Delibes, 1836年2月21日 - 1891年1月16日）は、特にバレエ音楽やオペラといった舞台作品でその才能を発揮しました。彼の生み出した音楽は、力強さや壮大さよりも、優雅で繊細な美しさを特徴としており、代表作であるバレエ『コッペリア』や『シルヴィア』、そしてオペラ『ラクメ』は、今日でも世界中で上演され、高く評価されています。その功績から、彼は「フランス・バレエ音楽の父」と称されています。かつて日本では「デリーブ」や「デリベス」といった呼び方もされていました。

生涯と教育

ドリーブは1836年、フランス中西部サルト県のサン＝ジェルマン＝デュ＝ヴァルに生を受けました。父はパリで郵便局員として働き、母はアマチュアながら音楽の才に恵まれ、オルガニストのエドゥアール・バティストを叔父に持ちました。また、父方の祖父もオペラ歌手という、音楽とは縁のある家庭環境でした。1847年に父を亡くした後、ドリーブは母と叔父に引き取られ、パリに移住します。12歳になる直前、彼は権威あるパリ国立高等音楽・舞踊学校（パリ音楽院）に入学しました。音楽院では、まずアントワーヌ＝ジュール・タリオに楽典を、続いてフェリクス・ル・クーペにピアノ、フランソワ・ブノワにオルガン、フランソワ・バザンに和声を師事しました。18歳からは、当時著名なバレエ音楽作曲家であったアドルフ・アダンに作曲を学びます。幼少期から優れた歌声を持っていたドリーブは、マドレーヌ寺院の聖歌隊員を務め、1849年にはパリ・オペラ座で行われたマイアベーアのオペラ『預言者』初演に参加しています。学生時代からオルガニストとしても活動し、1853年にはサン＝ピエール・ド＝シャイヨー教会のオルガニストを務めた後、リリック劇場の伴奏者となりました。彼はその後も1871年頃まで複数の教会のオルガニストを務めましたが、その関心は次第に舞台音楽へと移っていきました。

作曲家としての歩み

ドリーブの初期の舞台作品は、1856年にフォリー・ヌーベル劇場で初演されたオペレッタ『2スーの石炭、あるいはビゴルノーの自殺』などがあります。彼はその後約14年間にわたり、年に1作程度のペースで多数のオペレッタやオペラ・コミックを作曲しました。その多くは、ジャック・オッフェンバックが運営するブフ・パリジャン座のために書かれ、特に『2人の老看護婦』はその機知に富んだ旋律と音楽性で作曲家の才能を示すものと評価されました。

作曲活動に加え、ドリーブは短期間ながら音楽批評家としても活動したほか、学校での音楽検査員、パリ・オペラ座の伴奏者、そして後に合唱指揮者（1862年頃から）といった様々な職務を歴任しました。オペラ座での経験は、彼をバレエ音楽という新たな分野へと導きます。1866年、彼はレオン・ミンクスとの共作による2幕のバレエ『泉』の作曲を依頼され、第2幕と第3幕第1場を担当しました。音楽学者アドルフ・ジュリアンは、この作品におけるドリーブの旋律の豊かさがミンクスを霞ませたと評しています。この成功を受け、ドリーブは1867年にはアダンのバレエ『海賊』の再演のための挿入曲を作曲しました。

1881年、ドリーブはフーガや対位法に関する専門知識には自信がなかったと自ら認めていたものの、ナポレオン・アンリ・ルベルの後任としてパリ音楽院の作曲科教授に就任しました。翌1882年には、コメディ・フランセーズでのヴィクトル・ユーゴーの戯曲『王は愉しむ』再演のために付随音楽を作曲しました。この戯曲は、ジュゼッペ・ヴェルディのオペラ『リゴレット』の原作としても知られています。同時期の主要なオペラ作品である『ラクメ』は、1883年4月14日にオペラ＝コミック座で初演され、瞬く間にヨーロッパ中の劇場で上演される人気作となりました。ロンドン（1885年）やニューヨーク（1886年）でも上演され、国際的な名声を得ました。晩年のドリーブは経済的に恵まれており、1884年にはフランス学士院会員にも選ばれました。長期間体調を崩していたドリーブは、55歳の誕生日を目前にした1891年1月16日にパリの自宅で急逝しました。彼の遺体はモンマルトル墓地に埋葬されました。彼の最後のオペラ作品『カッシア』は未完に終わりましたが、ジュール・マスネによって補筆完成され、1893年に初演されました。

主な作品と評価

ドリーブは多岐にわたるジャンルの作品を残しましたが、特にバレエ音楽とオペラで高く評価されています。

バレエ

『泉』(La Source, 1866年)：レオン・ミンクスとの共作。
『コッペリア』(Coppélia, 1870年)：E.T.A.ホフマンの短編小説に基づく彼の最も有名なバレエ作品の一つ。師アダンに影響を受けたライトモチーフの使用や、ワルツの中にボレロ、チャールダーシュ、マズルカといった民族舞踊を取り入れているのが特徴です。ノーエル・グッドウィンはこの作品について、その音楽が物語を鮮やかに描き出していると述べています。
『シルヴィア』(Sylvia, 1876年)：『コッペリア』と並ぶ傑作とされ、特に第3幕のピッツィカートが有名です。チャイコフスキーはこの作品を絶賛し、知人に「恐らくは最高のバレエ音楽」と語ったと伝えられています。

オペラ

『王様のお言葉』(Le roi l’a dit, 1873年)
『ラクメ』(Lakmé, 1883年)：彼のオペラにおける最高傑作とされる作品で、特に第1幕の「花の二重唱」が広く知られています。『ニューグローヴ世界音楽大事典』（1883年版）でもバレエ作品を凌ぐ傑作として位置づけられています。ハーモニーやオーケストレーションにはビゼーの影響が見られ、音楽学者ヒュー・マクドナルドはメロディックで絵画的、かつ劇的な力強さを持つと評しています。会話部分が後からレチタティーヴォに改められた経緯を持ちますが、伝統的な劇的レチタティーヴォには難色を示す声もあります。この作品はオペラ・コミックのレパートリーとして重要視されており、近年も上演機会がありますが、主要な歌劇場での上演は歴史的に限定されています。

オペレッタ

『2スーの石炭』(Deux sous de charbon, 1856年)
『2人の老看護婦』(Deux vieilles gardes, 1856年)
『フォランビュッシュ風オムレツ』(L’omelette à la Follembuche, 1859年)
* 『マルボロー将軍は戦いに出かける』(Malbrough s’en va-t-en guerre, 1867年)：ビゼーらとの共作。

その他、劇付随音楽『歓楽の王』（Le roi s'amuse, 1882年）、アダンのバレエへの挿入曲として作曲され、独立した管弦楽曲としても知られる『花の踊り』（Pas de fleurs, または『ナイラ・ワルツ』Naïla Valse）、室内楽曲、宗教音楽、歌曲など、幅広いジャンルで作品を残しています。彼の音楽は、フランス的な洗練と優美さ、そして舞台効果を高める巧みな表現力によって、今なお多くの聴衆を魅了し続けています。

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