レックス・スタウト

レックス・スタウト：ネロ・ウルフを生んだアメリカ推理小説界の巨匠

レックス・トッドハンター・スタウト（Rex Todhunter Stout, 1886年12月1日 - 1975年10月27日）は、アメリカ合衆国が生んだ著名な小説家であり、推理作家です。彼の名は、不世出の名探偵ネロ・ウルフ・シリーズの創作者として、世界中のミステリーファンに広く知られています。

生い立ちと初期のキャリア

1886年、スタウトはインディアナ州で生まれ、クエーカー教徒の両親のもと、カンザス州で育ちました。幼少の頃から読書に親しみ、4歳で聖書を2度読破、10歳になるまでに1000冊もの古典を読んだという逸話が残っています。1906年から1908年まで海軍に勤務した後、約4年間で30もの職を転々としながら、詩や小説を雑誌に投稿する生活を送りました。1916年頃には学校金融制度を考案し、巨額の富を得てヨーロッパに滞在しましたが、1929年の世界恐慌でその財産を失ってしまいます。

推理作家としての転身と成功

当初はロマンスや冒険小説を執筆していたスタウトですが、アメリカ帰国後、探偵小説に転向します。1934年、48歳にして『毒蛇』を発表し、これが彼の作家としての転機となりました。以降、探偵ネロ・ウルフと助手アーチー・グッドウィンが活躍するシリーズを精力的に執筆し、人気を博しました。また、私立探偵テカムス・フォックスが登場する長編三部作や、当時としては珍しい女性私立探偵セオドリンダ・ボナーが登場する作品も発表しています。ノンシリーズ作品にも、警察関係者など、ウルフシリーズと共通する要素が見られます。

スタウトはアメリカ探偵作家クラブの会長も務めました。1975年10月27日、89歳で生涯を閉じましたが、その死の直前には遺作となる『ネロ・ウルフ最後の事件』が刊行されています。

作品の評価と影響

ヴァン・ダイン、エラリー・クイーン、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナーなど、同時期に活躍したアメリカの本格派推理作家たちの多くが、本国での人気を失っていく中で、ネロ・ウルフ・シリーズはシャーロック・ホームズに次ぐほどの人気を維持し続けています。しかし、日本では未訳の作品や、雑誌掲載のみで単行本化されていない作品も少なくありません。

スタウトにまつわるエピソード

スタウトはシャーロキアン（シャーロック・ホームズ研究家）としても知られ、「ワトスンは女だった」という論文を発表しています。エラリー・クイーンらは、「Sherlock Holmes」と「Nero Wolfe」の綴りの母音が同じ順序列になっていることから、ネロ・ウルフの名はシャーロック・ホームズの一種のアナグラムであると指摘しました。

1956年には、「ベーカー街ジャーナル」紙上で、ジョン・D・クラークが、ウルフはシャーロック・ホームズとアイリーン・アドラー（「ボヘミアの醜聞」の登場人物）の間に生まれた子供であるという説を唱えました。また、マイクロフト・ホームズの子とする説もありますが、スタウト自身はウルフの両親について言及していません。

1965年の作品『ネロ・ウルフ対FBI』は、FBIの「盗聴」などの捜査方法を批判した内容でした。

ベルギーの画家ルネ・マグリットは、いくつかの作品の題名をスタウトの著作から採用しています（例：Les compagnons de la peur (1942) → The League of Frightened Men (1935)）。

友人であった作家のP・G・ウッドハウスは、1977年に出版されたスタウトの伝記に序文を寄せています。これはウッドハウスが生涯で最後に書いた文章と言われています。

レックス・スタウトは、その卓越したストーリーテリングと魅力的なキャラクター創造によって、推理小説界に不朽の足跡を残しました。彼の作品は、今もなお多くの読者に愛され続けています。

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