レッド・ベイ国定史跡

レッド・ベイ国定史跡：バスク人捕鯨の歴史を今に伝える場所

レッド・ベイ国定史跡は、カナダのニューファンドランド・ラブラドール州にある、16世紀のバスク人捕鯨基地の遺跡群です。この場所は、1979年にカナダの国定史跡に指定され、2013年には「レッド・ベイのバスク人捕鯨基地」としてユネスコの世界遺産にも登録されました。特に、水中文化遺産を含めて世界遺産に登録された初めての例としても注目されています。

地理

レッド・ベイは、ニューファンドランド島とラブラドール地方を隔てるベルアイル海峡の北部に位置しています。セントジョンズからは直線距離で530km、ブラン＝サブロンからは80kmの距離にあります。自動車でのアクセスは510号線を利用します。この地は、サブロン島によって大西洋から隔てられた自然の良港で、バスク人はこの港を「ブトゥス」と呼んでいました。一方、17世紀のフランス人漁師たちは、この湾を「ベ・ルージュ（赤い湾）」と名付けました。

歴史

ラブラドール地方沿岸部には、約9000年前から人々が生活していました。マリタイム・アーカイックやパレオ・エスキモーといった先住民は、アザラシやセイウチ、タイセイヨウサケなどを狩猟・漁撈して生活し、独自の文化と技術を発展させました。

16世紀、特に1550年から1625年にかけて、レッド・ベイはバスク人にとって主要な捕鯨基地の一つとなりました。ケベック州のグロ＝メカティナからラブラドール地方のセント・チャールズ岬までの間には、少なくとも16もの捕鯨基地の遺跡が発見されており、当時のバスク人の活動が非常に活発であったことを示しています。最盛期には、スペインやフランスから約2000人ものバスク人漁師がレッド・ベイに集まりました。港には、タイセイヨウダラの干物を作るための施設や、鯨油を抽出するための竈を備えた捕鯨基地が20ヶ所ほど存在していました。

バスク人の後、レッド・ベイはフランス人、イギリス人、ジャージー島民によって利用され、タイセイヨウダラ漁、アザラシ漁、捕鯨が行われました。19世紀になると、ニューファンドランド島、イギリス、チャンネル諸島からの漁民が定住するようになりました。

遺跡の発見と保護

レッド・ベイの遺跡が確認されたのは1970年代です。1979年5月21日には、カナダ史跡記念物委員会によって国定史跡に指定されました。1978年から1984年にかけて行われた水中文化財の引き揚げ作業では、3隻のバスク人のガレオン船、4隻の小型舟艇、1隻の16世紀の捕鯨船が引き揚げられました。海底には、4隻の難破船の船体が残っており、そのうち1隻は「サン・フアン」号であることが確認されています。また、海底には鯨の骨が堆積しており、当時の捕鯨活動を物語っています。サドル島には捕鯨船員の墓地があり、60基の墓が残されています。さらに、15の精錬所や複数の樽製造所も当時の様子を伝えています。

1991年には、ニューファンドランド・ラブラドール州とカナダ当局が、レッド・ベイ国定史跡の発展を目的とした協定を結びました。観光客向けのオリエンテーションセンターや管理センターが設置され、2000年にはサドル島とその小道が一般公開されました。2010年から2011年の観光客数は8,417人でした。

世界遺産への登録

レッド・ベイ国定史跡は、2004年1月1日に世界遺産の暫定リストに記載され、2013年に正式に世界遺産に登録されました。登録名称は「レッド・ベイのバスク人捕鯨基地」で、英語では「Red Bay Basque Whaling Station」、フランス語では「Station baleinière basque de Red Bay」です。

登録対象には、夏の間の捕鯨基地の遺跡、竈の残骸、樽製造所、埠頭、住宅、墓地、そして周辺の海底に沈む難破船や鯨骨の堆積物が含まれています。

登録基準

この世界遺産は、以下の2つの登録基準を満たして登録されました。

1. (3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠。
レッド・ベイのバスク人捕鯨基地は、16世紀バスク人の捕鯨活動を今に伝える、非常に重要な証拠です。特に、その規模、保存状態、包括性の高さから、この種の捕鯨基地の中でも傑出した存在と評価されています。
2. (4) 人類の歴史上重要な時代を例証する建築様式、建築物群、技術の集積または景観の優れた例。
この遺跡群は、工業化以前の16世紀に、鯨油を大量生産する技術が確立されていたことを明確に示す、優れた考古学的遺産です。

レッド・ベイ国定史跡は、過去の捕鯨文化を伝えるだけでなく、今日の私たちに貴重な歴史的教訓を与えてくれます。

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