レッド・ロドニー

レッド・ロドニー：ビバップを彩った波乱のトランペット

レッド・ロドニー（Red Rodney、1927年9月27日 - 1994年5月27日）は、アメリカ合衆国ペンシルベニア州フィラデルフィア出身のジャズ・トランペット奏者です。そのキャリアはビバップ黎明期から始まり、多くの伝説的ミュージシャンたちと共演しながらも、薬物問題や経済的困難に苦しむという波乱に満ちたものでした。

15歳で早くもプロの音楽家としての道を歩み始めたロドニーは、1940年代半ばにはジェリー・ウォルドやジミー・ドーシー、ベニー・グッドマンといった著名なバンドリーダー率いるビッグバンドで経験を積みました。しかし、彼の音楽スタイルに決定的な影響を与えたのは、ディジー・ガレスピーとチャーリー・パーカーの出現でした。彼らの革新的なアプローチに触発され、ロドニーは自身の演奏をビバップへと転換させていきます。このスタイルチェンジは、クロード・ソーンヒル、ジーン・クルーパ、ウディ・ハーマンといった、当時の最先端を行くバンドとの共演を通じて研ぎ澄まされていきました。

ロドニーのキャリアにおける最も象徴的な出来事の一つが、1949年から1951年にかけてのチャーリー・パーカー・クインテットへの参加です。彼はこのグループにおける唯一の白人メンバーでした。当時、人種差別が根強く残るアメリカ南部でのツアーでは、混成バンドに対する偏見を避けるため、「アルビノ・レッド」という異名で紹介されるという苦肉の策が取られたこともありました。この時期、彼はパーカーと共に数々の歴史的なレコーディングに参加し、その名をジャズ史に刻みました。

1950年代に入ると、ロドニーは故郷フィラデルフィアで自身のバンドを率いるようになり、トランペット奏者のアイラ・サリヴァンとの交流が始まりました。しかし、この頃から彼はヘロイン依存に苦しむようになり、音楽活動からの離脱と復帰を繰り返す不安定な時期を迎えます。薬物問題は彼のキャリアに暗い影を落とし続けました。

1960年代後半から1970年代初頭にかけて、ロドニーはラスベガスでハウスバンドの一員として演奏していました。1969年から1972年にかけては、ラス・ブラック率いるフラミンゴ・カジノ・ハウス・バンドで、かつてウディ・ハーマン楽団で同僚だったトロンボーン奏者のビル・ハリスと共に働いています。

しかし、1970年代初頭には脳卒中を患い、その医療費が原因で破産するなど、困難は続きました。それでも彼はジャズへの情熱を失わず、再び音楽の世界へと戻ります。1975年には、麻薬関連の罪でケンタッキー州レキシントンの刑務所に収監されるという経験もしています。この刑務所内で、彼は後にMC5のギタリストとなるウェイン・クレイマーに音楽を教えていたというエピソードも残っています。

出所後、ロドニーは再び精力的に演奏活動を開始します。アイラ・サリヴァンとの絆は深く、1980年から1982年にかけては共に5枚のアルバムを制作し、ポスト・バップの領域へと踏み込みました。また、かつての師であるディジー・ガレスピーとの共演も実現させています。1990年代に入っても、彼は演奏とレコーディングを続け、ローリング・ストーンズのドラマー、チャーリー・ワッツによるチャーリー・パーカー追悼アルバムにも参加しています。さらに、1990年代後半に録音されたアルバム『Red Alert!』では、当時まだ19歳だった新進気鋭のサックス奏者、クリス・ポッターに初期の大きな機会を与えました。

晩年まで、ロドニーはジャズ・アット・リンカーン・センターやJVCジャズ・フェスティバルといった主要な舞台に立ち続けました。また、クリント・イーストウッド監督がチャーリー・パーカーの生涯を描いた映画『バード』では、音楽アドバイザーとして製作に協力し、作中ではマイケル・ゼルニカーがロドニー役を演じています。

ジャズ界の革新期を最前線で生き、波乱に満ちた人生を送ったレッド・ロドニーは、1994年5月27日、肺がんのため66歳でその生涯を閉じました。彼の残した録音は、ビバップ時代の貴重な証言として、また困難に打ち勝ち音楽への情熱を燃やし続けた一人のトランペッターの軌跡として、今も多くの人々に聴き継がれています。

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