レナード・ローズ

レナード・ローズ（Leonard Rose, 1918年 - 1984年）は、20世紀後半のアメリカを代表するチェロ奏者の一人です。オーケストラの首席奏者としてキャリアをスタートさせた後、国際的なソリスト、そして影響力のある教育者として多岐にわたり活躍しました。彼はまた、現存するクレモナ製の楽器の中でも特に貴重とされる、1662年製のアマティのチェロを生涯の友としました。

ワシントンD.C.に生まれたローズは、アマチュアチェロ奏者であった父の手ほどきで音楽の道を歩み始めました。10歳でマイアミ音楽院にてワルター・グロスマンに師事し、早くも13歳でフロリダのコンクールに入賞するなど才能を示します。その後、ニューヨークでNBC交響楽団の首席チェリストだったフランク・ミラーにも師事し、研鑽を積みました。

15歳で奨学金を得てカーティス音楽院に進み、名教師フェリックス・ザルモンドに師事。わずか2年で師のアシスタントを務めるほどになります。彼のプロフェッショナルとしてのキャリアは、巨匠アルトゥーロ・トスカニーニ率いるNBC交響楽団に20歳で入団し、間もなく首席チェリストに抜擢されたことから始まります。その後、アルトゥール・ロジンスキに招かれてクリーヴランド管弦楽団の首席となり、1943年にロジンスキがニューヨーク・フィルハーモニー管弦楽団の首席指揮者に就任すると、彼もまた同団に移り、首席チェリストとして重要な役割を担いました。

オーケストラ在籍中も、協奏曲のソリストとして度々フィーチャーされました。1944年にはニューヨーク・フィルとラロのチェロ協奏曲を演奏し、カーネギー・ホールでのソリストデビューを飾ります。また、1949年にはブルーノ・ワルター指揮の同団とベートーヴェンの三重協奏曲を録音するなど、首席奏者の枠を超えた活躍を見せました。

1951年、ソリストおよび教育者としての活動に専念するため、オーケストラを離れます。この年のエディンバラ音楽祭への出演が、彼のイギリスデビューとなりました。ソリストとしては、ユージン・オーマンディやレナード・バーンスタインといった著名な指揮者と共演し、協奏曲の分野で名を馳せました。

室内楽においても重要な功績を残しています。ヴァイオリニストのアイザック・スターン、ピアニストのユージン・イストミンと結成したピアノ三重奏団は、特に人気を博しました。彼らが演奏したベートーヴェンのピアノ三重奏曲全集は、1970年にグラミー賞最優秀室内楽部門を受賞するなど、高い評価を受けています。

ローズは教育者としても絶大な影響力を持しました。1946年からジュリアード音楽院で教鞭を執り、世界中のオーケストラやソリストとして活躍する数多くの優れたチェリストを育て上げました。彼は弟子たちにまずオーケストラでの経験を積むことを推奨していましたが、リン・ハレルやヨーヨー・マ、岩崎洸のようにソリストとして大成した弟子も輩出しています。特に9歳で紹介されたヨーヨー・マについては「史上最高のテクニック」と絶賛し、その才能の開花に貢献しました。

彼の教育理念には独特の視点がありました。チェロの弓の持ち方やヴィブラートの technique に独自の考えを持ち、弟子には具体的な指導を行いました。また、練習の重要性を常に説き、自身も演奏旅行中であっても1日に5時間の練習を欠かさなかったといいます。そして、演奏におけるひらめきよりも、事前の徹底した準備と計画に重きを置く姿勢を強調しました。

同時代の作品への貢献も見逃せません。1950年には、ディミトリ・ミトロプーロス指揮のニューヨーク・フィルとアラン・シュルマンのチェロ協奏曲をカーネギーホールで初演しています。シュルマンはまた、彼の作品「エレジー」をローズを含む複数のチェリストに捧げています。

ローズは「チェロの貴族」とも称され、その演奏は「スケールの大きい名人、特別に人々の心を魅了する音と、完全無欠のテクニックに恵まれている」と評されました。ヴァイオリニストのフリッツ・クライスラーや指揮者のブルーノ・ワルター、室内楽のパートナーであったアイザック・スターンやユージン・イストミンからも、その芸術性、特にチェロのあらゆる可能性を引き出す能力や、室内楽での完璧な調和性について惜しみない賛辞が送られています。

彼はやや神経質な一面があり、厳格なルーティンを重んじました。コンサート当日の午後4時には必ずステーキを食べるなど、決まった習慣を崩さなかったといわれています。私生活では、最初の妻との死別を経て再婚しています。

1984年11月16日、ニューヨーク州ホワイト・プレインズにて白血病のため、66歳でその生涯を閉じました。レナード・ローズは、演奏家としても教育者としても、チェロ界に indelible な足跡を残しました。

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