レバノン軍団

レバノン軍団（Lebanese Forces: LF）

レバノン軍団は、レバノン内戦中に誕生したキリスト教マロン派の民兵組織であり、後に右派政党へと転身しました。その歴史は、内戦の激動と深く結びついています。

組織の成立と内戦での活動

1976年9月、ファランヘ党の若き指導者であったバシール・ジェマイエルによって、レバノン軍団は創設されました。この組織は、ファランヘ党の青年部隊を核とし、国民解放党の民兵組織「タイガース・ミリシア」や、マロン派の武装部隊、「杉の守護者たち」など、中小のキリスト教系民兵組織が合同して結成されました。

当時のレバノンでは、1975年から内戦が勃発しており、1976年5月にはシリアが内戦に介入していました。ファランヘ党は当初、このシリアの介入に反発する姿勢を示し、フェニキア主義を主張しました。しかし、バシール・ジェマイエルは、反シリア、反PLO、そして親イスラエルという急進的な立場をとり、マロン派の若者層から圧倒的な支持を得ました。このことが、次第に党指導部との意見の相違を生み、結果としてバシールは分派することになります。

バシールは、イスラエルとの強いつながりを持ち、イスラエルから軍事顧問の派遣などの強力な支援を受けていました。1982年のイスラエルによるレバノン侵攻作戦では、レバノン軍団は自由レバノン軍などと共に、イスラエル国防軍の補助部隊として活動しました。また、内戦中には同じキリスト教のアッシリア人民族主義を掲げるシュラーヤ党やダシナク党とも連携しました。

バシールの暗殺と組織の分裂

1983年9月、大統領当選直後のバシール・ジェマイエルが、LF本部での演説中に爆弾テロにより暗殺されるという悲劇が起こりました。この事件は、レバノン軍団に大きな衝撃を与え、組織は有力な指導者を失いました。バシールの死後、幹部であるエリー・ホベイカらが率いる部隊によって、報復としてパレスチナ難民キャンプでの虐殺事件（サブラー・シャティーラ事件）が発生しました。

組織はその後、「山岳戦争」で大きな損失を被り、ホベイカは親シリアへと転向し、組織内で地位を向上させていきました。しかし、バシールの後継者であるサミール・ジャアジャアとの対立が深まり、LFは分裂状態に陥りました。最終的にホベイカは追放されましたが、組織は弱体化の一途を辿ります。1989年には、一時は同盟を組んでいたミシェル・アウン大将率いる国軍と衝突し、更なる損害を被りました。

内戦終結後の活動

1990年、内戦がシリアの制圧によって終結すると、ジャアジャアはLFを政党化しました。しかし、1994年に教会爆破事件に関与した疑いで逮捕・収監され、LF自体も非合法化されてしまいます。

2005年、ラフィーク・ハリーリー元首相暗殺事件を契機に発生した「杉の革命」によって、シリア軍がレバノンから撤退すると、ジャアジャアは釈放され、党首として復帰しました。現在は、ファランヘ党などと共に反シリア・イラン派の野党連合「3月14日連合」の一角を担っています。

レバノン軍団は、レバノン内戦という激動の時代を生き抜いた組織であり、その歴史は、レバノンの政治と社会に大きな影響を与えています。組織は分裂や弱体化を経験しましたが、現在もなおレバノンの政治において重要な役割を果たしています。

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