レープクーヘン

レープクーヘン：ドイツの伝統菓子

レープクーヘンは、ドイツを中心に中央ヨーロッパで親しまれている、蜂蜜とスパイスを使った伝統的なケーキです。クリスマスシーズンの定番として知られ、特に家型のレープクーヘンは「プフェッファークーヘンハウス」と呼ばれ、人々を魅了します。

材料と特徴

レープクーヘンのベースとなるのは、蜂蜜の甘みと、シナモン、クローブ、アニスなどの東洋由来のスパイスの風味です。カルダモン、コリアンダー、ショウガ、ナツメグなども使用されることがあります。酵母は使わず、炭酸アンモニウムや炭酸カリウムが膨張剤として用いられます。これらは生地に若干の苦味を与えます。

さらに、アーモンド、クルミ、オレンジピール、レモンピール、チョコレートなどが加えられ、風味に奥行きが生まれます。現在では、これらのスパイスをあらかじめブレンドした「レープクーヘンスパイス」も市販されています。

ドイツでは、レープクーヘンの品質基準が法律で定められており、「レープクーヘン」の名称を使用するには、この基準を満たす必要があります。「エリーゼンレープクーヘン」という名称を使用するには、生地に少なくとも25％のアーモンド、クルミ、ヘーゼルナッツを含めることが義務付けられています。

名称と地域差

レープクーヘンは地域によって様々な呼び名を持ちます。南部、西部、北部ドイツでは「レープクーヘン」が一般的ですが、南西ドイツでは「ラーベクーヘン」、「レッククーヘン」、「レーベンスクーヘン」といった名称も用いられます。バイエルン地方では「マーゲンブロート」という類似の名称も存在しますが、これは別の焼き菓子を指す場合もあります。一方、東部ドイツでは「プフェッファークーヘン」が広く使われています。

「レープクーヘン」の語源は諸説あり、はっきりとした結論は出ていません。「Leben（命）のKuchen（ケーキ）」という解釈や、ラテン語の「libum（パンケーキ）」が語源であるという説などがあります。「プフェッファークーヘン」は、スパイスをまとめて「Pfeffer（コショウ）」と呼んでいた中世に由来すると言われています。イギリスの「gingerbread」やフランスの「pain d'épices」も同様のスパイス菓子であり、東洋由来のスパイスがレープクーヘンの重要な要素であったことを示しています。

歴史

スパイス入りの蜂蜜パンに関する最古の記録は、紀元前350年まで遡ります。古代エジプトでも蜂蜜を使ったケーキが存在し、副葬品としても用いられていたようです。ローマ時代には、蜂蜜を塗って焼いた「パーヌス・メリトゥス」が知られていました。レープクーヘンは、クリスマスだけでなく、イースターや四旬節の時期にも食されていました。

現在のレープクーヘンの原型は、ベルギーのディナンで発明され、アーヘンを経て、フランケンの修道院で改良されたと言われています。修道女たちがデザートとして製造していたとされています。ウルムでは1296年に「プフェッファークーヘン」として言及されており、14世紀にはニュルンベルクの男子修道院でも作られていたことが確認されています。日持ちがよく保存しやすいという特性から、食料の乏しい時期にも重宝されました。

レープクーヘンの製造には、遠くの国から輸入されるスパイスが必要だったため、主要な交易都市には長い歴史を持つレープクーヘン文化が根付いています。ニュルンベルク、プルスニッツ以外にも、アウクスブルク、ウルム、ケルン、バーゼルなどが挙げられます。ミュンヘンでは1370年の税金目録に「レープツェルター」（レープクーヘン職人）の記述が見られます。ミュンヘンでは型抜きして砂糖で飾り付け、ニュルンベルクではアーモンドやレモンピールで飾るなど、地域差が見られます。西プロイセンのトルン（現ポーランド）の「トルン風レープクーヘン」も有名です。

レープクーヘンは、修道院のパン窯で焼かれ、南ドイツやオーストリアでは薄型のレープクーヘンを「ツェルテ」と呼び、製作者を「レープツェルター」と呼んでいました。レープクーヘン職人はギルドを形成していました。

普及とバリエーション

現代では、レープクーヘンは、地域によって様々な名称と形態を持つ、伝統的なクリスマス菓子として広く認識されています。チョコレートや砂糖のコーティングの有無、ナッツやアーモンド、ジャムの量など、バリエーションも豊富です。ハート型のレープクーヘンは、村祭りやクリスマス市などで人気があります。メッセージ入りのレープクーヘンは、記念品としての需要もあります。

世界的に有名なレープクーヘンには、ニュルンベルク風レープクーヘン、アーヘナープリンテン、バーゼル風レッカーリ、アルツベルク風レープクーヘン、ベントハイム風モッペン、プルスニッツ風プフェッファークーヘンなどがあります。フランスのディジョン、デンマークのクリスティアンフェルト、ポーランドのトルンなどでも、独特のレープクーヘンが作られています。スイスでは、レープクーヘンに聖ニコラウス像をつけた菓子も人気です。

非常に素朴なレープクーヘンの一種である「ゾーセンクーヘン」は、ソースを作る調味料として一年中使われています。現在では、市販のレープクーヘン生地やミックススパイスも容易に入手できます。

ロシアのレープクーヘン：プリャーニク

ロシアにもレープクーヘンに似た菓子「プリャーニク」があります。小麦粉、砂糖、バター、油、水、牛乳、塩を主な材料とし、蜂蜜やスパイスを加えることもあります。トゥーラ市はプリャーニクの名産地として知られており、プリャーニク博物館も存在します。

まとめ

レープクーヘンは、その歴史、製法、地域差、そして多様なバリエーションを通じて、中央ヨーロッパの文化と歴史を反映する、魅力的な菓子です。クリスマスの時期だけでなく、一年を通して様々な場面で楽しまれ、人々の生活に深く根付いていることが分かります。

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