ロザリオ・プレストピーノ

1950年 12月18日にイタリアのカンパニア州ナポリで生を受け、2008年 5月13日にローマで57年の生涯を閉じたロザリオ・プレストピーノ（Rosario Prestopino）は、イタリア映画界、特にホラー分野で名を馳せたメイクアップアーティスト、特殊メイクアーティスト、特殊効果技師でした。彼はそのキャリアの大部分をイタリア国内で築き、数々の著名な監督作品に貢献しました。

初期キャリアと研鑽

プレストピーノの映画界での活動は1976年頃に始まり、当初はヘアスタイリストやメイクアップ・アシスタントとしてクレジットされています。1977年にはディーノ・リージ監督のコメディ映画「La stanza del vescovo」でニーロ・ヤコポーニのアシスタントを務めるなど、この時期にファブリツィオ・スフォルツァを含む様々な経験豊富なアーティストの下で技術を磨きました。

転機となったのは、1979年にルチオ・フルチ監督のホラー映画『サンゲリア』（Zombie 2）に参加したことです。ここでは、ジャンネット・デ・ロッシやマウリツィオ・トラーニといった、イタリアホラー特殊メイクの大家のアシスタントとして、ゾンビの造形とメイクアップをサポートしました。この経験が、彼のその後のキャリアの方向性を決定づけることになります。

フルチ監督との関係は続き、『地獄の門』（City of the Living Dead, 1980）ではフランコ・ルフィーニのアシスタントを務めました。製作側の意向で、当初フルチが希望していたデ・ロッシに代わって経験の浅いルフィーニが起用される中、プレストピーノは『サンゲリア』チームから唯一留任し、重要な役割を果たしました。その後も、『ルチオ・フルチの恐怖!黒猫』（The Black Cat, 1981）、『未来帝国ローマ』（Conquest, 1983）でフランコ・ディ・ジローラモのアシスタントを担当。1982年の『ザ・リッパー』（The New York Ripper）では、マウリツィオ・トラーニ、フランコ・ディ・ジローラモに加え、後にアカデミー賞受賞者となるマンリオ・ロッケッティとその弟ルイージ・ロッケッティといった強力なチームの一員として特殊メイクを手がけるなど、アシスタントとして様々なプロジェクトに参加し、その技術の幅を広げていきました。

ルチオ・フルチ作品以外でも、マリーノ・ジローラミ監督の『人間解剖島/ドクター・ブッチャー』（Zombi Holocaust, 1980）ではマウリツィオ・トラーニのアシスタントとして参加しています。

独立とホラーでの確立

1981年、プレストピーノはアンドレア・ビアンキ監督作『ゾンビ3』（Burial Ground: The Nights of Terror）で、アシスタントではなくメインの特殊メイクアーティストとして独り立ちを果たしました。この作品では、『地獄の門』でも協力した特殊効果技師のジーノ・デ・ロッシと共にゾンビマスクを制作し、印象的な殺人シーンの特殊メイクを手がけました。低予算ながら、後にカルト映画として熱狂的な支持を得る本作での功績は、彼の独立したアーティストとしての評価を確立しました。

また、1980年には、ヴィンチェンツォ・ナポリと共同で、オーストラリア映画『パトリック』の非公式な続編とされるイタリア映画「Patrick vive ancora」の特殊メイクを担当しています。

ダリオ・アルジェントとの協業

1980年代半ば以降、プレストピーノのキャリアはダリオ・アルジェントとの協業によって一層輝きを増します。1985年、アルジェントが製作、ランベルト・バーヴァが監督を務めたホラー映画『デモンズ』（Demons）に特殊メイク班として参加。主任のセルジオ・スティヴァレッティを助け、数多くの残酷描写を創出しました。共演女優の証言によると、スティヴァレッティがクリーチャーの造形などを担当したのに対し、プレストピーノはデモンズに憑依された人物の顔や手といった特殊メイクを主に担当していたとされます。

翌年の続編『デモンズ2』（Demons 2, 1986）では、スティヴァレッティがアニマトロニクスなどのメカニカルな特殊効果に注力したため、プレストピーノが特殊メイク部門の主任を務めました。この成功以降、彼はアルジェントのプロデュース作品に継続的に参加し、『オペラ座/血の喝采|オペラ座_血の喝采』（Opera, 1987）、『デモンズ3』（Demons 3, 1989）、『デモンズ4』（Demons 4, 1990）といった作品で特殊メイクを担当しました。

その他の活動と晩年

ホラー映画での活躍に加え、プレストピーノは多岐にわたる作品に携わりました。1987年には吉川晃司主演の日伊合作映画『シャタラー』（Formula for a Murder）でメイクアップを担当。2004年には作家スザンナ・タマーロが監督した「Nel mio amore」でもメイクアップを手がけています。

息子のディエゴ・プレストピーノもメイクアップアーティストとしてジュゼッペ・トルナトーレやアベル・フェラーラ作品で活躍しており、ロザリオは晩年に息子と共に短編映画「La sceneggiatura」（2006年）と「Amore estremo」（2006年）の特殊メイクを担当しました。これらの作品はロザリオの死後、ローマ国際映画祭などに出品され、特殊メイク賞を受賞しています。

ロザリオ・プレストピーノは2008年 5月13日、ローマで心臓発作により急逝しました。57歳でした。イタリアンホラー黄金期を支えた彼の特殊メイク技術は、多くの映画ファンに強烈な印象を残しています。

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