ロシア科学アカデミー東洋学研究所

ロシア科学アカデミー 東洋学研究所

ロシア科学アカデミー東洋学研究所は、世界的に著名な東洋学研究機関の一つです。その起源は、1818年に設立されたロシア帝国科学アカデミーの一部門であるアジア博物館に遡ります。1930年、ソ連科学アカデミー東洋学研究所としてサンクトペテルブルクに設立され、長年にわたり東洋学研究の中心的な役割を果たしてきました。

特徴

この研究所の大きな特徴は、その豊富な文献コレクションです。65の言語に及ぶ約8万5千点の文献を所蔵しており、東洋学研究における貴重な資料となっています。また、500名以上の研究者が在籍し、日々研究活動に従事しています。

ワシーリィ・バルトリド、ワシーリィ・ミハイロヴィチ・アレクセーエフなど、東洋学研究の先駆者たちがこの研究所から輩出されました。梵語仏典の研究で名高いセルゲイ・オルデンブルクや、仏教論理学を世界に紹介したフョードル・シチェルバツコイ、アンドレイ・パリボクなど、仏教学の碩学も数多く輩出しています。

19世紀後半以降、中央アジアやシルクロード各地で貴重な教典類が数多く発見されましたが、これらの多くが同研究所に収集され、仏教教典や写本のコレクションは世界的な規模を誇っています。所蔵する写本と木版本のコレクションは、その規模と構成において、東洋の古典籍を世界で最も多く収蔵している施設の一つと言えるでしょう。

歴史

アジア博物館

研究所の公式ホームページでは、その歴史は1818年11月に設立されたアジア博物館に始まったとしています。これは、ロシア帝国科学アカデミーが、アレッポやトリポリに駐在したフランス領事ジャンバティスト・ルソーからイスラーム教関連写本700点を購入したことに端を発します。

当時の帝国科学アカデミー総裁セルゲイ・ウヴァーロフは、東洋の硬貨や手写本などを陳列する特別な場所が必要であると提唱し、1818年11月15日にアジア博物館が設立されました。ウヴァーロフは、この博物館が「資料に興味がある者なら誰にでも開かれている」場所となることを願っていました。

アジア博物館の初代館長はクリスティアン・マルティン・フレーンが務めました。彼は、博物館が一年間で得た学術的知見を『サンクトペテルブルク新聞』で報告し、以後、年次報告が伝統となりました。1849年からは、博物館自体が逐次刊行物『Mélanges Asiatiques』（フランス語）を発行するようになりました。

アジア博物館は国費の助成を受け、国内外の研究者が収蔵資料を利用できるよう整備されました。当初は貴重なコレクションを展示する博物館でしたが、次第に文献資料研究のための図書館、研究センターへと発展しました。ロシアにおける東洋学の発展とともに、アジア博物館はロシアにおける東洋学研究の中心的な拠点となり、その後、カザン大学やサンクトペテルブルク大学も新たな研究拠点として発展しました。

革命・内戦期

1917年からのロシア革命と内戦期にも、アジア博物館の蔵書と資料は増加し続けました。しかし、この時期は科学アカデミーに深刻な打撃を与え、多くの会員が亡くなったり亡命したりしました。アジア博物館は、これらの会員の蔵書を引き受ける形で資料を増やしましたが、多くの場合、書籍や写本は略奪にあい、状態は良好ではありませんでした。人的損失に加え、資金や燃料、紙やインクも不足するという状況でした。

しかし、この時代は東洋学研究の新たな形式が模索された時代でもありました。1917年には、アジア博物館に初めて日本学専門のスタッフが迎えられ、その後も日本学の研究者が加わりました。

組織と活動

2022年3月現在、東洋学研究所は、北西アフリカからオセアニアまでを含むアジアを研究対象地域とし、古代から現代までを研究対象としています。研究対象地域ごとに部門を分け、特定の国や地域を対象とした研究拠点を設けています。その他、現代東洋の重要課題を対象とした研究拠点や、学術資料の保存と利用に特化した部門も設置されています。

具体的な研究拠点と部門は以下の通りです。

学術出版部門
エネルギー及び運輸研究拠点
インド学研究拠点
日本学研究拠点
中東学研究拠点
科学分析的情報研究拠点
東南アジア・オーストラリア・オセアニア研究拠点
現代の東洋に共通する課題の研究拠点
アラブ・イスラーム学研究拠点
中央ユーラシア調査研究拠点
古代オリエント部門
アジア・アフリカ言語部門
アジア文学部門
中国部門
比較文化学部門
経済学部門
イスラエル及びユダヤ人コミュニティ部門
朝鮮及びモンゴリア部門
東洋文献資料部門
東洋史部門
* デジタル技術ラボラトリー

ロシア科学アカデミー東洋学研究所は、長年にわたり東洋学研究の発展に貢献してきた重要な研究機関です。その豊富な資料と研究実績は、今後の東洋学研究においても重要な役割を果たすでしょう。

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