ロジャー・ホーキンス (ドラマー)

ロジャー・ホーキンス

1945年10月16日にこの世に生を受け、2021年5月20日に75歳で生涯を閉じたロジャー・ホーキンスは、アメリカ音楽史において重要な足跡を残したドラマーです。特に、アラバマ州を拠点としたマッスル・ショールズ・サウンド・スタジオでの活動を通じて、数多くの伝説的なレコーディングに貢献しました。

キャリアの始まりとマッスル・ショールズ・サウンドの設立

インディアナ州で生まれ育ったホーキンスは、やがて音楽の道を志し、アラバマ州へと移り住みます。キャリアの初期には、南部音楽の重要な中心地であったリック・ホール氏が主宰するフェイム・スタジオでドラマーとして腕を磨きました。

フェイム・スタジオでの活動を通じて、彼はギターのジミー・ジョンソン、ピアノのバリー・ベケット、そしてベースのデヴィッド・フッドといった、後に音楽史に名を刻むことになる凄腕のミュージシャンたちと出会います。彼ら4人は、後に「マッスル・ショールズ・リズム・セクション」として知られる鉄壁のリズム隊を形成し、アラバマ州シェフィールドに新たなレコーディング拠点、マッスル・ショールズ・サウンド・スタジオを共同で設立しました。このスタジオは、フェイムと並び称されるほど、アメリカ南部音楽、特にソウルやR&B、ロックにおいて重要な役割を果たすことになります。

音楽性と貢献

ロジャー・ホーキンスのドラミングは、彼が白人ドラマーでありながら、当時のソウル・ミュージックやR&Bといったブラック・ミュージック特有の深いグルーヴとフィーリングを見事に体現していたことに最大の特徴があります。彼のタイトかつ躍動的なリズムは、多くの楽曲に力強い土台と魂を吹き込みました。

彼がレコーディングに参加したアーティストや楽曲のリストは非常に長く、アメリカポピュラー音楽の歴史を辿るかのようです。特に有名なものとしては、パーシー・スレッジの時代を超えた名曲「男が女を愛する時」や、ウィルソン・ピケットのファンキーなヒット曲「ダンス天国」「ムスタング・サリー」などが挙げられます。また、ソウルの女王、アレサ・フランクリンの初期の代表作である「リスペクト」や「アイ・ネバー・ラブド・ア・マン」といった楽曲における彼のドラミングも、その後の音楽シーンに多大な影響を与えました。

これらに加え、ホーキンスはザ・ステイプル・シンガーズ、ジョニー・テイラー、ボビー・ウーマック、クラレンス・カーター、エタ・ジェイムズといったソウル界の巨匠たち、そしてデュアン・オールマン、ジョー・コッカー、ポール・サイモン、ボブ・シーガー、ボニー・ブラムレット、ボビー"ブルー"ブランド、ボズ・スキャッグス、アルバート・キング、トラフィック、ダン・ペン、ルル、ウィリー・ネルソンなど、ロック、ブルース、カントリーといったジャンルを超えた幅広いアーティストたちの作品に参加しています。これは彼の卓越した技術と、いかなる音楽にも対応できる適応力の高さを証明しています。

晩年と遺産

長きにわたり音楽シーンの第一線で活躍したロジャー・ホーキンスでしたが、晩年は慢性閉塞性肺疾患を患い、病と闘っていました。そして2021年5月20日、75歳で静かに息を引き取りました。彼の死は、彼が深く関わったマッスル・ショールズの音楽コミュニティだけでなく、世界中の音楽ファンにとって大きな悲しみとなりました。

ロジャー・ホーキンスが残したドラミングは、今もなお数え切れないほどの楽曲の中で力強く響き渡っています。彼は単なるセッション・ミュージシャンではなく、その独特の感性と技術で楽曲に命を吹き込み、マッスル・ショールズ・サウンドという唯一無二の音像を作り上げるのに不可欠な存在でした。彼の功績は、これからも音楽史の中で輝き続けることでしょう。

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