ロスト・ワールド (1925年の映画)

1925年に製作されたアメリカの無声映画で、SF作家アーサー・コナン・ドイルの小説『失われた世界』を原作としています。

本作は、当時としては画期的なストップモーションアニメーションや特殊メイクといった技術を駆使し、未開の地に生きる恐竜や原始的な生物たち、そしてその舞台となる「失われた世界」の様子を非常にリアルに描き出すことに成功しました。その視覚的な迫力と革新性は大きな成功を収め、後の特撮映画やモンスター映画というジャンルに多大な影響を与えています。特に、同じく特撮映画の金字塔とされる『キング・コング』(1933年)の誕生へと道を拓いた作品としても知られています。物語の基本的な骨子は原作を踏襲していますが、いくつかの重要な改変が加えられています。

原作には登場しないオリジナルキャラクターとして、ポーラ・ホワイトという若い女性がヒロインとして追加されました。彼女は「失われた世界」を最初に発見した探検家メープル・ホワイトの娘であり、チャレンジャー教授たちが恐竜の存在を確信する上で重要な証言者となります。また、ポーラに懐く子猿のジョッコも新たに登場し、探検隊が「失われた世界」から脱出する場面で思わぬ活躍を見せます。一方で、原作に描かれているロクストン卿への復讐を目論む現地人ゴメスとその関連エピソードは省略されています。さらに、「失われた世界」の住人についても変更があり、原作では猿人と人間に近い原始人が激しい争いを繰り広げていましたが、本作に登場するのは猿人のみとなっています。この猿人も原作のような群れではなく、チンパンジーを連れた一匹が登場するのみで、ポーラの父メープル・ホワイトを襲って食い殺したことが示唆されるなど、より凶暴な存在として描かれています。この猿人は探検隊が縄梯子で脱出する際に妨害を試みますが、ロクストン卿によって射殺されます。

クライマックスに向けての重要な変更点として、チャレンジャー教授がロンドンへ持ち帰る古生物が、原作のプテロダクティルスから巨大なアパトサウルス（公開当時の名称はブロントサウルス）に変更されました。このアパトサウルスがロンドン市街で逃走し、暴れ回り、タワーブリッジを破壊してテムズ川に転落し、海へと泳ぎ去るというスペクタクルな場面が、本作の最大の見せ場となっています。作中では、このアパトサウルスはティラノサウルスと対峙する場面などがあり、歯をむき出しにして威嚇したり、喉元に噛みついたりするなど、非常に獰猛な恐竜として描かれています。

また、物語にロマンス要素が加わった点も特徴です。主人公のマローンとポーラは「失われた世界」での過酷な体験を通じて惹かれ合いますが、マローンにはロンドンに想いを寄せる女性グラディスがいることを知ったポーラは身を引こうとします。しかし、ロンドンに帰還すると、グラディスは原作通り弁護士と結婚しており、皮肉にもポーラの障害は消滅します。最終的にマローンとポーラは結ばれ、ロクストン卿の祝福を受けてハッピーエンドを迎えるという、原作とは異なる結末が描かれています。

本作の製作陣には、監督のハリー・O・ホイト、原作のアーサー・コナン・ドイルに加え、特殊効果と技術監督として後の『キング・コング』を手掛けることになるSFXの巨匠ウィリス・H・オブライエンが名を連ねています。彼の指揮のもと、本作は実に7年もの歳月をかけて撮影されたと言われています。主要キャストには、ポーラ・ホワイトをベッシー・ラヴ、ジョン・ロクストンをルイス・ストーン、チャレンジャー教授をウォーレス・ビアリーらが演じています。本作の成功は、特撮技術の可能性を示し、以降の映画表現に大きな影響を与えた歴史的な一作と言えるでしょう。なお、本作は1960年にリメイクされています。

本作は無声映画として製作されましたが、後に配信などで公開されたバージョンの中には、背景音楽としてシューベルトの楽曲などが付加されているものも存在します。

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