ロス・アルファケス大惨事

事故の概要

ロス・アルファケス大惨事（スペイン語: Accidente del camping de Los Alfaques）は、1978年 7月11日、スペイン東部のカタルーニャ州、アルカナー郊外にあるロス・アルファケス・キャンプ場付近で発生した産業事故である。この日、付近を走行していたタンクローリーに積載されていた可燃性の液体プロピレンが爆発し、大規模な火災を引き起こした。この事故により、タンクローリーの運転手を含む少なくとも217名が命を落とし、200名を超える人々が重度の火傷を負った。

事故発生までの経緯

事故現場となったロス・アルファケス・キャンプ場は、アルカナー市街の北東、観光地サン・カルラス・ダ・ラ・ラピタの近くに位置し、海岸線とスペインの主要幹線道路である国道340号線（N-340）に挟まれた立地だった。

事故を起こしたタンクローリーは、Cisternas Reunidas S.A.が所有するペガソ製トラクターとフルハーフ製セミトレーラーの組み合わせであった。事故発生当日、午前10時15分頃、運転手フランシスコ・インベルノン・ビジェーナ（当時50歳）は、タラゴナ近郊にあるスペイン国営エネルギー企業ENPETROL社（現在のレプソル）の精油所に到着した。プエルトジャーノから来たこのタンクローリーは、別の国営企業Paular社（現在のレプソル）向けのプロピレンを給油された。

正午過ぎの12時5分、タンクローリーは可燃性の液体プロピレン23トンを積んで精油所を出発した。しかし、これは設計上の最大積載量である19.35トンを約4トン超過した過積載状態であった。また、本来であれば安全のため道幅が広く人口密集地を避ける高速道路（A-7）を走行すべきであったが、運転手たちは会社から高速道路料金を節約するために国道340号線を通るよう指示されていた。事故当日は真夏の炎天下で、気温は摂氏35度に達しており、タンク内部の圧力は1.2MPaから1.7MPa（約170 - 250psi）にまで上昇していたと推定されている。

大災害の発生

事故は午後2時35分頃に発生した。タンクローリーが出発地から約100キロメートル離れたロス・アルファケス・キャンプ場傍らを通過しようとした時である。事故発生直前の状況については複数の証言があり、キャンプ場に至る前からプロピレンが漏れ出ていたという証言もあれば、キャンプ場通過中に爆発音と共に漏れ出し、運転手が停車させようとしたという証言もある。また、タイヤの破裂が原因で車両が制御不能になり、道路脇の壁に衝突・横転したという証言もある。いずれにせよ、路上で停止したタンクローリーから漏れ出したプロピレンは瞬時に気化して霧状になり、一部は隣接するキャンプ場へ流れ込み、風に乗ってさらに北東のディスコにまで漂った。このプロピレンガスに引火し、炎がタンクローリーへ逆流（フラッシュバック）して積載されていた燃料全体が大爆発を起こした。

道路南側のロス・アルファケス・キャンプ場は、本来収容人員275人の規模であったが、事故当日は1,000人近い外国人観光客（主に西ドイツ人）がトレーラーやテントで滞在し、非常に賑わっていた。プロピレンの爆発によって生じた火球の温度は1,000℃に達したとみられ、爆発地点には直径20メートル、深さ1.5メートルのクレーターが形成された。火炎と爆風は周囲300メートル以内の車両、トレーラー、建物などすべてを破壊し尽くし、キャンプ場の面積の90%が焼失した。特に、着火点の一つとみられるディスコには約100名の客がいたが、全員が焼死した。

救助活動と被害の実態

プロピレンの爆発と1,000℃に達する火球に加え、駐車していた自動車やキャンプ客のガスボンベなども次々と炎上・誘爆し、タンクローリーの運転手や観光客ら推定157名が即死した。爆発発生から45分以内には、比較的軽傷の生存者たちが協力して、車やバンで負傷者の搬送を開始した。その後、通報を受けた消防隊や救急隊が続々と到着。事故の甚大さが明らかになると、治安警察や軍にも協力が要請され、様々な組織が連携して生存者の救助と消火活動にあたった。全ての負傷者が病院へ搬送されたのは、事故発生から約3時間後のことであった。

猛火に包まれたタンクローリーの残骸が国道を完全に塞いだため、負傷者は搬送方向によって南と北に分かれた。北のアンポスタやトゥルトーザへ運ばれた負傷者は比較的適切な初期治療を受け、重体の58名はバルセロナの専門病院へ搬送された。一方、南のバレンシアにある病院へ運ばれた82名の重症患者は、搬送中に十分な治療を受けられず、病院到着時にショック状態で血圧が測定できない状態の者も多かった。多くが体表面積の90%以上に重度の熱傷を負っており、数日後に死亡するケースが相次いだ。

事故から1週間後には、容態が安定したフランス、ベルギー、オランダ、西ドイツなどの外国人被害者の帰国が始まった。負傷者は約300名にのぼり、その中には多数の重傷者が含まれた。公式な死亡者数は215名と発表されたが、現場で発見された遺体数や病院で亡くなった人々を含めると、少なくとも270名が犠牲になったとみられている。スペイン人の犠牲者はわずか4名であり、圧倒的多数が外国人旅行者であった。

多くの遺体は損傷が激しく、身元や性別の特定が極めて困難であった。身につけていたものは水着の一部と推定される焼け焦げた布切れのみで、パスポートなどの身元を示す手掛かりは完全に焼失していた。当時はまだDNA型鑑定が実用化されていなかったが、各国の法医学チームの献身的な努力により、ほぼ全ての遺体の身元特定に成功し、そのほとんどが母国に返還された。しかし、7名の遺体は長期間身元が判明せず、トゥルトーザの墓地に埋葬された。また、一部の遺体は補償内容確定後に返還されたケースもあった。

事故原因の究明

事故後、タンクローリー所有会社のCisternas Reunidasは事故責任を認めつつも、有料高速道路を回避して国道を通行させた指示の存在は否定し、運転手ビジェーナ個人の責任を主張した。しかし、公的な事故調査が進む中で、精油所の従業員からビジェーナが電話で通行料金について誰かと口論していたという証言が得られた。

調査の結果、事故の原因として複数の要因が複合的に絡み合っていたことが判明した。まず、積荷であるプロピレンが設計上の最大積載量を大幅に超過していたこと。次に、事故当時は法的に義務付けられていなかったものの、緊急時の圧力を軽減する安全弁がタンクに設置されていなかったこと。さらに、このタンクローリーが過去に可燃物以外の物質（タンク内部を腐食させる可能性のある無水アンモニアなど）の輸送にも使用されており、スチールの残渣検査で以前の過重圧力による腐食の痕跡が確認されたことなどが明らかになった。これらの要因が重なり、タンクが瞬間的に破裂に至ったと考えられている。たとえ安全弁がなくても、正常なタンクであれば人々が逃げる時間を稼げるだけの構造的な強靭さがあるべきであった。

一方、積荷元であるENPETROL社は当初から自社の責任を明確に否定し、運送会社に責任があるとしていた。しかし、事故調査を通じて、当時のENPETROL社精油所では過積載が常習的に行われていた実態が明らかになった。タラゴナ工場では、排出するガス圧を測定するメーターがなく、積載量超過を防ぐ自動シャットオフ機構も備わっていなかった。また、運転手に対して、積荷の正確な重量や種類、危険物としてのクラス、出発前や輸送中のタンク内圧力などが十分に知らされていなかったことも判明した。さらに、事故を起こした運転手ビジェーナは、危険物輸送に関する専門的な研修（HAZMATトレーニング）を受けていなかった。これは、会社が彼の20年という運転経験から不要と判断したためであった。

その後の影響

この大惨事を受けて、スペインでは危険物の人口密集地における運搬が原則禁止され、運送時間帯も夜間に限定されるなど、危険物輸送に関する規制が大幅に強化された。

1982年、ENPETROL社の4名とCisternas Reunidas社の2名が業務上過失の罪で起訴された。彼らには1年から4年の有罪判決が言い渡されたが、その後上訴した4名は刑が軽減されたり、執行猶予が付いたりした。最終的に、両社は合計で1,323万ユーロに上る補償金を被害者やその遺族に支払った。

事故現場となったロス・アルファケス・キャンプ場はその後再建され、現在も営業を続けている。

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