ロック鳥

ロック鳥（ルフ、ロフ、英: roc）は、中東からインド洋にかけての地域に伝わる伝説上の巨大な鳥です。その体は非常に大きく、3頭の象や犀（サイ）を容易に掴んで巣に運び、雛鳥（ひなどり）の餌にしてしまうほどの怪力を持つと語られています。様々な文献や伝承に登場し、ルフという別名でも知られています。

この巨鳥の伝説がどのようにして生まれたのか、その正確な起源は明らかではありません。しかし、8世紀初頭のアラブの記録には、実在する大型の鳥類がこの伝説の元になった可能性が示唆されています。特に、マルコ・ポーロが口述したとされる『東方見聞録』には、マダガスカル島に巨大な鳥がいたと記述されており、この島に17世紀頃まで生息していた、象のように巨大な地上性の鳥であるエピオルニスなどが、ロック鳥の伝説のモデルとして誇張されたのではないかと考えられています。また、ユーラシア大陸の南西部やアフリカ大陸北部の山地に生息する大型の鷲であるヒゲワシも、そのモデルの一つではないかと言われています。

ロック鳥の伝説は、『千夜一夜物語』（アラビアンナイト）に収められたシンドバッドの冒険譚を通じてヨーロッパでも広く知られるようになりました。イスラム世界やアジア各地では、古くから語り継がれてきた物語です。10世紀のペルシャの旅行家、ブズルク・ブン・シャフリヤールが著した『インドの驚異譚』には、ロック鳥の羽根の軸で作られた水差しについての記述があります。筒状で、大きなものは直径が20cmにも達したといい、これはマダガスカル島から運ばれてきたものとされています。現代では、これはマダガスカル産の巨大な竹筒が羽根と誤認されたものではないかと推測されています。実際に、マダガスカル語のヴル(volo)という言葉には、「鳥の羽根」と「竹」の二つの意味があるといいます。

時代を下って、マルコ・ポーロの『東方見聞録』では、マダガスカルの記述の中に、現地の人々が「ルク（ruc）」と呼ぶ巨大な鳥が登場します。マルコ・ポーロはこの鳥をグリフォンであるとし、その羽が元のハーンに献上されたと記しています。また、中国から来た商人によって、巨大な羽の一部がスペインにも持ち込まれた記録があります。マダガスカルでロック鳥の生息地を探した人々は、ロック鳥の羽として持ち込まれたものに形がよく似た、ラフィアヤシの巨大な葉を見つけたといいます。アラブの有名な旅行家、イブン=バットゥータの旅行記にも、この巨鳥に関する記述が見られます。さらに新しい時代では、16世紀にインド洋を旅したイギリス人旅行者による目撃報告も存在します。

ロック鳥は、他の伝説上の巨鳥や不死鳥としばしば関連付けられます。アラブの伝説に登場するフェニックスとは非常に近い存在だと考えられています。また、ペルシャの伝説に登場する巨鳥、シームルグとも近縁であるとされています。シームルグは、フェルドウスィーの叙事詩『王書』の中で、英雄ザールの養父として描かれ、その子ロスタムを助ける存在として登場します。さらに古代イランまで遡ると、万物の種子を生み出すとされる神話上の木から熟した果実を振り落としたという不死鳥、アムルゼス（amrzs）の伝説が見られます。インドには、鳥類の王であり、ヴィシュヌ神の乗り物とされる聖鳥ガルダの伝説があります。パーレビ王朝時代のインド伝説の翻訳では、このガルダがシームルグに置き換えられている例も見られ、これらの伝説上の鳥たちが相互に関連していることがうかがえます。

様々な文化圏の神話や物語に登場し、その巨大さと神秘性で人々を魅了してきたロック鳥は、今なお伝説上の存在として語り継がれています。

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