ロバート・マンデル

ロバート・アレクサンダー・マンデル

ロバート・アレクサンダー・マンデル（Robert Alexander Mundell）は、1932年10月24日にカナダのオンタリオ州キングストンで生まれ、2021年4月4日にイタリアのシエーナで胆管癌により逝去した、多大な功績を残したカナダ出身の経済学者です。長年にわたり、コロンビア大学経済学科で教鞭を執りました。特に国際金融とマクロ経済学の分野で革新的な理論を構築し、その業績が認められ、1999年にはノーベル経済学賞を単独で受賞しました。

彼の学術的な道のりは、バンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学での学びに始まりました。その後、シアトルに位置するワシントン大学で修士号（M.A.）を取得。さらに高みを目指し、マサチューセッツ工科大学（MIT）に進学し、1956年に経済学の博士号（PhD）を取得しています。

キャリアの初期には、1952年にスタンフォード大学とジョン・ホプキンス大学で教壇に立ちました。国際的な舞台での経験としては、1961年から1965年まで国際通貨基金（IMF）での勤務が挙げられます。その後は学術界に戻り、1965年から1972年までシカゴ大学で経済学教授を務めると同時に、『Journal of Political Economy』の編集者としても活動しました。1972年から1974年にかけてはカナダのウォータールー大学に移籍し、1974年からはニューヨークのコロンビア大学経済学教授に就任。2001年には同大学で教員として最高位にあたるUniversity Professorの称号を得ました。

主な理論と貢献

マンデル教授の業績の中でも特に影響力が大きいものとして、以下の理論や貢献が挙げられます。

最適通貨圏理論：複数の国が単一の通貨を導入する際に考慮すべき経済的・構造的条件を体系化した理論です。この理論は後にユーロ圏の設計思想に大きな影響を与え、「最適通貨圏理論の父」あるいは「ユーロの父」とも称される理由となりました。
マンデルフレミングモデル：開放経済における金融政策と財政政策の効果を、固定相場制と変動相場制のそれぞれで分析するための基礎的なモデルです。国際マクロ経済学における標準的な分析ツールとして広く用いられています。
金本位制の研究：金本位制の歴史的な運用メカニズムとその経済的影響について深い洞察を提供しました。
インフレーション予測：1970年代に発生した高いインフレーションを予測したことでも知られています。
マンデルの定理：経済政策における目標と手段の適切な対応関係を示す定理です。
マンデル=トービン効果：予想インフレ率の上昇が名目金利の上昇につながるものの、実質金利は低下する可能性を示唆する概念です。

また、1970年代以降、彼はかつての自身の学説を見直し、供給側の要因を重視するサプライサイド経済学が台頭する中で、その形成に大きな影響力を持つ存在となりました。

受賞歴と栄誉

ノーベル経済学賞以外にも、マンデル教授は数多くの栄誉を受けています。

1971年 - Guggenheim Prize
1983年 - Jacques Rueff Medal and Prize
1992年 - パリ大学名誉博士号
1995年 - 中国人民大学名誉教授
1997年 - アメリカ経済学会 Distinguished Fellow Award
1998年 - アメリカ芸術科学アカデミー フェロー
2000年 - 中国人民大学名誉博士号

中国・北京にあるMundell International University of Entrepreneurshipは、その功績を称えて彼の名が冠されています。

国際経済に関する見解

マンデル教授は、国際経済の動向や通貨システムについても独自の主張を展開しました。例えば、世界の主要通貨の最適な数は奇数であり、具体的には3つ未満が望ましいとの持論を展開していました。また、2008年の世界金融危機以降の経済情勢についても言及しており、特に欧米経済の停滞に関し、FRBの量的緩和終了後も深刻な景気悪化には陥らないとの見方を示しました。

ユーロ圏の債務問題（欧州ソブリン危機）については、特にギリシャなど高債務国の状況が国際的な問題であることを指摘し、これらの国が債務不履行に陥れば大規模な銀行取り付け騒ぎを誘発する危険性があると警告しました。また、欧州中央銀行（ECB）がユーロ高を容認したことが、域内高債務国の危機を悪化させたと批判し、欧州当局が独自の資産購入策を検討する必要があるとの考えを示しました。将来の世界通貨体制については、中国人民元が日本円に取って代わり、ユーロ、ドル、人民元の3通貨による新しい体制が築かれるべきだと主張していました。

邦訳された主な著書

日本においても、彼の重要な著作は翻訳され、多くの読者に影響を与えています。

『国際経済の貨幣的分析』（柴田裕訳、東洋経済新報社、1976年）
『マンデルの経済学入門』（竹村健一訳、ダイヤモンド社、2000年）
『マンデル 貨幣理論』（柴田裕訳、ダイヤモンド社、2000年）
* 『国際経済学』（渡辺太郎・箱木真澄・井川一宏共訳、ダイヤモンド社、2000年）

ロバート・アレクサンダー・マンデル教授は、その生涯を通じて国際金融論とマクロ経済学の発展に計り知れない貢献を果たしました。彼の理論は、現代の国際通貨システムや経済政策の分析において、今なお重要な位置を占めています。

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