ロベルト・ヴィットーリ

ロベルト・ヴィットーリは、1964年 10月15日にイタリア、ラツィオ州ヴィテルボで生まれた、欧州宇宙機関（ESA）に所属するイタリア人宇宙飛行士です。元イタリア空軍のテストパイロットとして、宇宙へと至る独自のキャリアパスを歩みました。

飛行士としての経歴

彼の飛行士としてのキャリアは、まず軍から始まりました。1989年にイタリア空軍士官学校を卒業した後、アメリカ合衆国で高度な飛行訓練を受けました。この期間に、彼はイタリア空軍の主力攻撃機の一つであるトーネードIDSの操縦経験を積んでいます。さらに専門性を深めるため、アメリカ海軍テストパイロット学校に入学し、卒業しました。イタリアに帰国後、彼はイタリア国内のテストセンターでプロジェクトパイロットとして重要な役割を担いました。特に、当時欧州各国が共同で開発を進めていた次世代戦闘機、ユーロファイタータイフーンの開発プログラムに、テストパイロットとして深く関与しました。
また、1991年から1994年にかけては、ピアチェンツァに所在するイタリア空軍第155飛行隊の一員として再びトーネードIDSの操縦任務にあたりました。この実戦的な任務の中で、彼は空中給油を含む様々な技術を習得し、資格を取得しています。ヴィットーリ氏はそのキャリアを通じて、F-104、F/A-18、G.222などを含む実に40種類以上の異なる航空機を操縦し、合計で1700時間を超える膨大な飛行経験を積み上げました。この広範かつ専門的な飛行経験は、後に宇宙飛行士として活動する上での強固な基盤となりました。

宇宙飛行士への道

卓越した飛行技術とテストパイロットとしての経験が認められ、1998年8月、ロベルト・ヴィットーリは欧州宇宙機関（ESA）により、新たな宇宙飛行士候補者の一人として選抜されました。宇宙飛行士としての初期訓練は、アメリカ合衆国のテキサス州にあるNASAジョンソン宇宙センターで実施されました。ここでは、宇宙船システムの習得、船外活動（EVA）のシミュレーション、ISSでの生活や作業に関する訓練など、宇宙空間で活動するために必要な多岐にわたる専門的な知識と技能を習得しました。厳しい訓練プログラムと能力評価を経て、ヴィットーリ氏は正式に宇宙飛行士として認定され、NASAにおいて職務にあたることになります。

宇宙飛行ミッション

ロベルト・ヴィットーリは、そのキャリアの中で合計3回の宇宙飛行を経験しました。いずれも国際宇宙ステーション（ISS）への訪問を目的とした重要なミッションでした。

ソユーズTM-34 (2002年)

彼の初めての宇宙への旅は、2002年4月25日から5月5日にかけて行われたソユーズTM-34ミッションでした。これは、ロシア連邦宇宙局（Roscosmos）、イタリア宇宙機関（ASI）、そして欧州宇宙機関（ESA）の国際協力の下で実現した短期滞在ミッション「マルコ・ポーロ計画」の一環でした。ヴィットーリ氏はフライトエンジニアとして搭乗し、ISSへの往復を担当しました。ISSに滞在中は、ESAが準備した4つの多様な科学実験を実施し、微小重力環境下での様々な現象や人体への影響についてデータを収集しました。また、当時ISSに係留されていたソユーズ宇宙船を、緊急時の脱出艇（救命艇）として機能させるための重要な取り付け・整備作業も成功させました。ミッション終了後、彼は軌道上で切り離されたソユーズTM-33宇宙船で地球への帰還を果たしました。

ソユーズTMA-6 (2005年)

ヴィットーリ氏にとって2度目となるISSへの飛行は、2005年4月15日に打ち上げられたソユーズTMA-6ミッションでした。このフライトでも彼はフライトエンジニアとして搭乗し、ISS長期滞在クルーの交代と補給を行う遠征11ミッションの一部を担いました。ISSには約8日間滞在し、同年4月24日にソユーズTMA-5宇宙船で地球に帰還しました。このミッション参加により、ロベルト・ヴィットーリ氏は欧州宇宙機関に所属する宇宙飛行士として、初めて国際宇宙ステーションへの2回以上の訪問を達成した人物となりました。この滞在中、彼は宇宙空間での長期滞在が宇宙飛行士の上肢の疲労に与える影響を調査する生理学的な実験や、微小重力環境下における草本植物の種子の発芽と初期成長に関する生物学的な実験などを行いました。

STS-134 (2011年)

彼の3度目にして最後の宇宙飛行は、2011年に行われたスペースシャトル・エンデバー号によるSTS-134ミッションでした。これは、退役を控えていたスペースシャトル計画における最後のミッションの一つ（エンデバー号にとっては最後の飛行）であり、彼はこの歴史的なフライトにミッションスペシャリスト兼フライトエンジニアとして参加しました。STS-134ミッションは、国際宇宙ステーションへアルファ磁気分光器（AMS-02）などの重要な観測装置や物資を輸送し、ISSの建設・維持に貢献しました。このミッションにESAの宇宙飛行士として参加したことで、ロベルト・ヴィットーリ氏は、スペースシャトルに搭乗した最後の欧州宇宙機関の宇宙飛行士、そしてアメリカ国民以外の宇宙飛行士として、宇宙開発史にその名を刻むこととなりました。

功績

ロベルト・ヴィットーリは、元軍用機パイロットとしての比類なき飛行経験を活かし、欧州とイタリアの有人宇宙開発プログラムにおいて重要な役割を果たしました。複数回にわたるISS滞在での科学実験実施や技術作業、そしてスペースシャトル計画の最終期における貢献は、彼の専門性と国際協力への貢献を示すものです。彼のキャリアは、地球上での卓越した航空技術が、宇宙空間での探査と研究へと繋がる道のりを示しています。

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