ロベール・カサドシュ

ロベール・カサドシュは、1899年4月7日にフランスの首都パリで生まれ、1972年9月19日にその生涯を閉じた、フランスを代表するピアニストであり、同時に優れた作曲家でもありました。彼は音楽家の家系に育ち、幼い頃から音楽に親しみました。パリ音楽院で高名なルイ・ディエメの指導を受け、その才能を開花させます。1913年には首席で卒業という栄誉に輝き、さらに1920年には権威あるディエメ賞を受賞するなど、早くから将来を嘱望される存在でした。

私生活では、1921年に同じくピアニストであったギャビー・リュフェルと結婚し、生涯の伴侶を得ました。彼らは夫婦として、また演奏家として頻繁に共演し、多くの録音を残しています。キャリアの初期においては、1922年から作曲家モーリス・ラヴェルと密接に協力関係を築き、ピアノロールへの録音作業に携わったほか、フランス本国はもちろん、スペインやイギリスといった国々でもラヴェルとステージを共にしました。

ソリストとしてのカサドシュは、その活動範囲を世界中に広げ、五大陸すべてで演奏を行いました。また、妻ギャビー夫人との息の合ったデュオは特に人気があり、後に息子ジャンもピアニストとして加わり、家族三人のトリオとしてもモーツァルト作品などを録音し、高い評価を得ています。教育活動にも熱心だった彼は、1935年からフォンテーヌブローにあるアメリカ音楽院で教鞭をとりました。第二次世界大戦の勃発に伴いアメリカへ渡り、戦時中はかの地に滞在しましたが、終戦後の1950年にはフランスへ帰国。古巣であるアメリカ音楽院では、1952年まで院長を務め、後進の育成にも力を注ぎました。彼の門下からは、モニク・アースやクロード・エルフェといった著名なピアニストが育っています。

ピアニスト、ロベール・カサドシュの演奏は、古典的なスタイルと洗練された表現、そして抑制の効いた端正なピアニズムに特徴がありました。彼の録音は今なお多くの人々に聴き継がれています。特に、ラヴェル作品の解釈は規範的とされ、その明晰なタッチと色彩感豊かな表現は高く評価されています。また、ヴァイオリニストのジノ・フランチェスカッティと共演したベートーヴェンのヴァイオリンソナタ全集は名盤として知られ、中でも第9番「クロイツェル」ソナタの演奏は映像記録としても残されており、近年DVDとして復刻されるなど、時代を超えて愛されています。フランチェスカッティとは、彼自身の作曲した作品の録音でも共演しています。

家族との録音以外にも、カサドシュは多くの協奏曲を録音しました。モーツァルトの後期ピアノ協奏曲群、ヴァンサン・ダンディの『フランス山人の歌による交響曲』、そしてラヴェルの『ピアノ協奏曲 ト長調』などが代表的なものです。これらの壮大なプロジェクトにおいては、コロンビア交響楽団、ジョージ・セル指揮のクリーヴランド管弦楽団、ユージン・オーマンディ指揮のフィラデルフィア管弦楽団といった世界的なオーケストラや指揮者と共演し、その演奏史に名を刻んでいます。晩年の演奏として、フェルディナント・ライトナー指揮バイエルン放送交響楽団とのライブ録音も存在し、これも近年復刻され、深い音楽性が再評価されています。

ピアニストとしての輝かしいキャリアに加えて、カサドシュは作曲家としても多作でした。彼は生涯にわたって7曲の交響曲、3曲のピアノ協奏曲、そして膨大な数の室内楽曲やピアノ独奏曲を作曲しました。管弦楽曲には、初期の組曲から晩年の交響曲第7番「イスラエル」に至るまで、彼の創作の歩みが刻まれています。協奏曲としては、ピアノ協奏曲のほか、ヴァイオリン協奏曲、チェロ協奏曲、フルート協奏曲など、独奏楽器と管弦楽のための作品を多数生み出しました。室内楽曲のレパートリーは特に豊富で、ヴァイオリン、チェロ、ヴィオラ、フルート、オーボエといった様々な楽器のためのソナタ、ピアノ三重奏曲、四重奏曲、五重奏曲、弦楽四重奏曲、木管五重奏曲など、多様な編成の作品を残しています。ピアノ作品には、24の前奏曲や複数のソナタ、練習曲などがあり、彼のピアニストとしての視点が反映されています。これらの作品は、フランス音楽の伝統を受け継ぎつつ、彼独自のクラシックな構築力と抒情性を兼ね備えています。ロベール・カサドシュは、演奏家、作曲家、そして教育者として、20世紀のフランス音楽界に大きな足跡を残した多才な芸術家と言えるでしょう。

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