フォンテーヌブロー・アメリカ音楽院は、
1921年に
フランスの古都、
フォンテーヌブローに設立された歴史ある音楽学校です。正式名称は
フランス語でConservatoire américain de Fontainebleau、英語ではFontainebleau Schoolsと呼ばれ、
フォンテーヌブロー・アメリカ音楽院や
フォンテーヌブロー音楽院といった通称でも親しまれています。1923年には美術学校も開校し、現在では音楽と美術の両分野を含む
フォンテーヌブロー学校として、世界中から集まる若い才能に教育を提供しています。
創設の背景とその歩み
この学校の起源は、第一次世界大戦中にさかのぼります。当時、
フランスに司令部を置いていたアメリカ遠征軍のジョン・J・パーシング将軍は、米軍軍楽隊の演奏レベル向上を目指し、音楽学校の設立を計画しました。この構想を実現するため、将軍は
ニューヨーク・フィルハーモニックの指揮者であった
ウォルター・ダムロッシュに協力を依頼。ショーモンに設けられたこの音楽教育施設は、作曲家で教育者でもあったフランシス・カサドシュが率いることとなりました。
戦争終結後、ダムロッシュとカサドシュは、この音楽教育の取り組みを継続することを決定します。
フランス政府の支援も得て、
1921年に
フォンテーヌブロー城内のルイ15世館にアメリカ音楽院として正式に開校しました。初代院長には、著名な作曲家でありオルガニストの
シャルル=マリー・ヴィドールが迎えられ、「将来を嘱望される若者たちに、
フランスが誇る最高の音楽教育を提供する」という崇高な目標が掲げられました。
世界的巨匠が集う教育環境
アメリカ音楽院の最大の特長の一つは、その設立当初から世界最高峰の音楽家たちが教壇に立ったことです。例えば、印象派の巨匠
モーリス・ラヴェル、オルガン界の巨匠
マルセル・デュプレ、ピアノの
ロベールとギャビー・カサドシュ夫妻、ピアニストの
フィリップ・アントルモン、著名な弦楽トリオである
パスキエ・トリオ、作曲家の
ジャン・フランセや
アンリ・デュティユー、現代音楽の作曲家
ジルベール・アミや
ベッツィ・ジョラス、
アンドレ・ブクレシュリエフなどが名を連ねています。
さらに、ヴァイオリニストの
ピエール・アモイヤル、伝説的なピアニスト
スヴャトスラフ・リヒテル、チェロの巨匠
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ、ヴァイオリンの
ユーディ・メニューイン、ピアニストの
アントン・ルビンシテイン、そして指揮者・作曲家として名高い
レナード・バーンスタインといった、20世紀音楽史を彩る錚々たる顔ぶれが、この地で後進の指導にあたりました。
特に、作曲と和声の指導者として絶大な影響力を持った
ナディア・ブーランジェは、開校当初から教育に携わり、1949年から1979年まで院長を務めました。彼女が教育に注いだエネルギー、深い知識、そして類まれな精神は、長年にわたり音楽院の教育の指針となり、数多くの音楽家を育て上げる原動力となりました。
輩出された著名な音楽家たち
アメリカ音楽院からは、教育目標の通り、多くの才能ある音楽家たちが巣立っていきました。その代表的な例としては、アメリカを代表する作曲家の一人である
アーロン・コープランドや、ジャズ、ポップスの分野で世界的な成功を収めた音楽プロデューサー、作曲家、アレンジャーの
クインシー・ジョーンズなどが挙げられます。彼ら以外にも、様々な分野で活躍する音楽家たちがこの地で学び、その才能を磨きました。
美術分野の教育
1923年に設立された
フォンテーヌブロー美術学校は、音楽学校と同様に「最高の芸術教育を提供する」という使命を共有しています。当初は絵画、建築、彫刻といった分野で教育を行っていましたが、特に
フランスにおける歴史的な建築教育の豊かな伝統と、
フォンテーヌブロー城とその美しい庭園という立地を生かし、建築分野に特化したプログラムに重点を置くようになりました。
美術学校にも、国際的に著名な建築家や芸術家が指導者として集まっています。例えば、構造設計で知られる
フェリックス・キャンデラ、プリツカー賞を受賞したインドの建築家
バルクリシュナ・ドーシ、テキスタイル・アーティストの
シーラ・ヒックス、ランドスケープアーキテクトの
ルシアン・クロールや
ルネ・ペシェール、建築家の
アルド・ファン・アイクなどが、学生たちの創造性を刺激し、育成に貢献しています。
まとめ
フォンテーヌブロー・アメリカ音楽院および美術学校は、第一次世界大戦後の日仏間の友好と文化交流を背景に誕生し、
フォンテーヌブロー城という歴史的な環境の中で、音楽と美術の分野における国際的な最高レベルの教育を提供し続けています。数多くの巨匠たちが教鞭を執り、多くの優れた芸術家を世界に送り出してきたこの学校は、今日でも芸術教育の重要な拠点の一つとしてその存在感を示しています。