ロマノス1世レカペノス

ロマノス1世レカペノス（870年 - 948年）は、東ローマ帝国マケドニア王朝の皇帝であり、その波乱に満ちた生涯は、下層階級からの異例の出世と、権力闘争に翻弄された晩年という二つの側面を持ち合わせています。

ロマノスは、バシレイオス1世と同様にアルメニア人の農民の子として生まれました。そこから海軍に入り、卓越した才能と努力によって頭角を現し、ついには帝国海軍の司令長官という要職にまで上り詰めました。しかし、彼が歴史に名を残すことになったのは、軍人としての功績だけではありません。

917年、コンスタンティノス7世の母で摂政であったゾエ・カルボノプシナがブルガリア帝国との戦いに敗北し、その権威が失墜すると、ロマノスは919年3月にクーデターを起こし、ゾエを追放しました。そして、娘ヘレネをコンスタンティノス7世に嫁がせて義父となり、副皇帝、共同皇帝へと地位を上げ、帝国の実権を掌握しました。920年12月には、ついに自ら正皇帝として即位し、コンスタンティノス7世を共同皇帝へと格下げしました。これにより、ロマノスは東ローマ帝国の頂点に立ちました。

即位後、ロマノスは巧みな外交手腕を発揮し、貴族との婚姻関係を強化することで自らの権力基盤を固めました。また、教会との関係も深め、末子のテオフュラクトスを総主教に任命するなど、宗教面でも影響力を拡大しました。対外的には、ブルガリア帝国のシメオン1世の侵攻を、クロアト族との同盟によって撃退し、シメオンの死後にはブルガリアとの和睦を成立させ、その息子ペタル1世に娘マリアを嫁がせることで帝国西方の国境を安定させました。さらに、名将ヨハネス・クルクアスを起用して東方でのイスラム勢力に対する攻勢を強め、東方への勢力拡大にも成功しました。941年にはキエフ大公国の艦隊によるコンスタンティノープル攻撃を撃退するなど、その治世は安定と繁栄の時代でした。

しかし、ロマノスの治世は、内部からの揺らぎにも見舞われました。帝位の世襲化を目指したロマノスでしたが、931年に長男クリストフォロスが早世したことでその計画は頓挫します。ロマノスは、残された実子であるステファノスとコンスタンティノスを無能と見なし、後継者から除外してコンスタンティノス7世を後継者に指名しました。しかし、この決定は実子たちの不満を招き、944年12月に彼らはロマノスを追放し、マルマラ海のプリンキポス諸島へ送られました。そして、ロマノスは修道士として余生を送ることになりました。実子たちは、その後コンスタンティノス7世をも排除しようとしましたが、民衆の支持を得られず失敗に終わり、逆に捕縛されて追放されました。

ロマノス1世は、948年6月15日に孤独な修道士として亡くなりました。レカペノス家の名前は、その後東ローマ帝国の歴史に登場することはほとんどありませんでしたが、ロマノスの庶子である宦官バシレイオス・ノソスは、コンスタンティノス7世の息子ロマノス2世の時代からバシレイオス2世によって追放されるまで、事実上の宰相として行政を司り、権勢を誇りました。ロマノス1世の生涯は、その波瀾万丈さとともに、東ローマ帝国の歴史において重要な役割を果たした人物として記憶されています。

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