ロータス・76

ロータス 76 (Lotus 76) の概要

ロータス76は、1974年のF1世界選手権に参戦するためにチーム・ロータスが開発したフォーミュラ1カーです。この車両は、コーリン・チャップマン、トニー・ラッド、ラルフ・ベラミーらによって設計され、チーム・ロータスでは「ジョン・プレイヤー・スペシャル・マークI（John Player Special Mk.I）」と呼ばれていました。

設計と特徴

ロータス76は、前作の成功作である72を引き継ぐ形で開発されました。ウェッジシェイプのボディデザインや、インボード式ブレーキ、トーションバー・スプリングなど、72の特徴を受け継ぎながらも、76独自の革新的な機能が追加されていました。その中でも特筆すべきは、変速時にクラッチの操作をシフトレバーのスイッチで行える「電磁クラッチ」の採用です。この技術により、ドライバーはクラッチペダルを操作する必要がなくなり、負担が軽減されることを目指しました。これにより、1990年代以降に普及するパドル式セミオートマチックシフトや2ペダルのレイアウトを先取りした形割り当てられたと言えるでしょう。

車両のフットボックスは４つのペダル配置で、右から順に「アクセル」「右ブレーキ」「左ブレーキ」「クラッチ（スタート用）」と並んでいました。ブレーキペダルを中央に配置することで、ドライバーは左右どちらの足でも操作できるよう配慮されています。特に、4ペダルの採用はロニー・ピーターソンの要望によるもので、カートの技術を取り入れた走行スタイルにも繋がっています。

空力デザイン

空力的なデザインにおいては、エンジンカウルがリアタイヤの後ろまで水平に延長され、細い形状の後端部には上下に分かれたリアウィングが取り付けられました。ボディの幅もスリムに設計され、薄型のサイドポンツーン内に後退角のあるラジエーターが設置されています。これらの空力設計は、走行時の安定性を確保しつつ、最大限のダウンフォースを得るための工夫と言えるでしょう。

名門チーム・ロータスは、この76モデルからメインスポンサーであるインペリアル・タバコのブランド名を付けて「John Player Special」と名づけるようにしました。F1車両にスポンサー名を冠するスタイルは、アメリカのモータースポーツの影響を受けたものです。第一世代の76は「Mark. I」と呼ばれ、その後の77は「Mark. II」などと続いていきました。

実戦投入と結果

ロータス76は1974年のF1シーズンの第3戦である南アフリカGPから実戦投入されましたが、発表会で見せられた複葉ウィングではなく通常のリアウィングが装備されていました。電磁クラッチは革新的とされましたが、実際にはロニー・ピーターソンやジャッキー・イクスは従来のフットクラッチに戻すことを好み、結局はノーマルな3ペダル操作に逆戻りしました。76はわずか3戦に出走するも完走できず、結果として72Eが再び用意されたのです。

その後、72と76のハイブリッドモデルを試みたりしましたが、成功は収められず、最終的には76はわずか7戦で運命を閉じることになりました。この失敗は、その後の1975年シーズンにも響き、ロータスは72Eや72Fを使用せざるを得ず、勝利から遠ざかることとなりました。

スペック

• - シャーシ名: John Player Special Mk.I
• - シャーシ番号: JPS.9（76/1）、JPS.10（76/2）
• - 構造: アルミニウムモノコック
• - エンジン配置: ミッドシップ
• - 全長: 4572mm
• - ホイールベース: 2565mm
• - トレッド: 1575mm
• - 車体重量: 575kg
• - フロントサスペンション: ダブルウィッシュボーン・トーションバー
• - リアサスペンション: ラジアスアーム・トーションバー
• - タイヤ: グッドイヤー
• - ギアボックス: ヒューランドFG400 5速マニュアル

エンジン

• - エンジン名: フォード・コスワース DFV
• - 気筒数・角度: V型8気筒、90度
• - 排気量: 2,993 cc
• - 吸気方式: 自然吸気
• - 燃料・潤滑油: ダッカムス

このように、ロータス76は数々の先進的な技術を持ち合わせた車両でありながら、その実戦での不運から長命とはいかなかったことが悔やまれます。

もう一度検索