ローマン・コンクリート

ローマン・コンクリート（古代コンクリート）

ローマン・コンクリート、または古代コンクリートは、ローマ帝国時代に広く用いられた建築材料です。現代のコンクリートとは異なり、ポルトランドセメントではなく、火山灰と石灰を主成分とするジオポリマーの一種でした。この独特な組成が、ローマン・コンクリートに驚異的な耐久性と強度を与え、数千年を経てもなおその姿をとどめる建造物を生み出しています。

ローマン・コンクリートの特性

現代の鉄筋コンクリートは、二酸化炭素の侵入による中性化や塩害によって内部の鉄筋が錆び、強度が低下する傾向があります。そのため、日本の鉄筋コンクリート建造物の寿命は一般的に50年から100年程度とされています。しかし、ローマン・コンクリートは鉄筋を使用しないため、中性化の影響を受けにくく、数千年の耐久性を保持することができます。ただし、無筋コンクリートであるため、曲げや引張力には弱いという欠点も持ち合わせています。

東北大学教授の久田真氏の研究によれば、ローマン・コンクリートの耐久性の高さは、火山灰を混ぜることでコンクリートが緻密になったためと推測されています。また、不要になった煉瓦を砕いて骨材として再利用するなど、現代のコンクリートと同様に資源の有効活用が行われていたと考えられています。北海道立総合研究機構の谷口円氏も、骨材に用いられた火山灰が二酸化炭素や塩分の染み込みを抑制し、耐用年数を延ばす効果があると指摘しています。実際、火山灰を混ぜたコンクリートは、通常のコンクリートと比較して、二酸化炭素や塩分が鉄筋に到達するまでの期間が大幅に延長されることが実験で証明されています。

ローマン・コンクリートの現代への応用

近年、ローマン・コンクリートの技術を現代に応用する試みが進められています。鹿児島大学の武若耕司氏は、九州南部の火山性堆積物であるシラスをコンクリートの骨材として利用する研究を行っています。この「シラス・コンクリート」は、鹿児島県霧島市の丸尾滝橋の基礎部分に採用され、温泉の湯気、高温の地熱、強酸性の土壌といった過酷な環境下でも100年以上の耐久性が見込まれています。

また、山口大学工学部の池田攻名誉教授らは、ジオポリマー技術が地球温暖化防止や鉱物質廃棄物処理に貢献する可能性を指摘しています。さらに、山下保博氏、野口貴文氏、佐藤淳氏らの研究グループは、未利用資源の活用、リサイクルプロセスの形成、長寿命コンクリートの開発を目指し、環境型シラスコンクリートを開発しました。この技術を用いた世界初の建築「R・トルソ・C」は、国内外で数々の賞を受賞しています。

2023年には、ローマン・コンクリートに含まれる「石灰クラスト」と呼ばれる酸化カルシウムの小粒が、生石灰に水と火山灰などを混ぜて作られる際に生成され、水分と反応してひび割れを埋める自己修復機能を持つことが解明されました。この自己修復機能こそが、ローマン・コンクリートの長寿命を支える大きな要因であると考えられています。

ローマン・コンクリートの施工方法

ローマン・コンクリートの施工は、現代のコンクリートと同様に型枠を使用しますが、その手順には違いがあります。現代では、骨材とモルタルを混ぜてから型枠に流し込むのが一般的ですが、ローマン・コンクリートでは、まず型枠に骨材を投入し、その上からモルタルを流し込んで締固めを行うという方法がとられていました。このプロセスを繰り返すことで、高いコンクリート壁や柱などを施工することができました。ただし、モルタルを先に投入するという説も存在します。

型枠の素材には、木材、石、レンガなどが用いられました。石やレンガを型枠として使用した場合は、コンクリート硬化後もそのまま建造物の一部として残されます。木製型枠の場合は、取り外して打ち放しの仕上げとするか、漆喰や石張り仕上げを行うなどの方法がとられました。特に、天井のヴォールト部などの施工には木製型枠が用いられました。

石やレンガを型枠として用いる場合、その積み方によって以下のような名称が付けられていました。

オプス・クアドラトゥム：直方体の石を層積みする方法
オプス・インケルトゥム：不規則な継ぎはぎ積みする方法
オプス・レティクラトゥム：網目状に積む方法
オプス・テスタケウム（オプス・ラテリキウム）：煉瓦を層積みする方法
オプス・スピカトゥム：ジグザグに積む方法

複数の工法を組み合わせた場合は、「オプス・ミクストゥム」と呼ばれていました。

ローマン・コンクリートを用いた代表的な建築物

ローマン・コンクリートを用いた代表的な建築物としては、以下のものが挙げられます。

パンテオン：内径43m、天窓の直径9mを誇る巨大建築物。ローマン・コンクリートの技術が駆使され、上に行くほど軽くなる6層構造となっています。
基礎：凝灰岩と砕石
1階：凝灰岩と石灰岩の砕石
2階（窓がある）：凝灰岩の砕石とレンガ片
円蓋下部：レンガ片
円蓋中部：凝灰岩の砕石とレンガ片
円蓋上部：凝灰岩の砕石と軽石
フラウィウス円形闘技場（コロッセオ）
カラカラ浴場
マクセンティウスのバシリカ
トラヤヌスの市場
ローマ水道の水道橋や導水渠、分水施設
アウレリアヌス城壁

まとめ

ローマン・コンクリートは、現代のコンクリートとは異なる特性を持つ古代の建築材料であり、その驚異的な耐久性は、火山灰を主成分とする独自の組成と、石灰クラストによる自己修復機能によるものです。この古代の技術は、現代の建築にも応用され、長寿命で環境負荷の少ないコンクリートの開発に貢献しています。

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