ローマ劇場 (ボスラ)

ボスラのローマ劇場

シリア南西部のボスラに位置するローマ劇場は、2世紀に建設された古代ローマ時代の劇場建築の傑作です。その壮大な規模と保存状態の良さから、今日まで多くの人々を魅了し続けています。この劇場は、かつてナバテア王国の首都であったボスラが、ローマ帝国の支配下に入った後に建設されました。ローマ皇帝トラヤヌスの時代に、ボスラはアラビア属州の州都となり、その繁栄を象徴する建造物として、ローマ劇場が建てられました。

歴史

ボスラは、ナバテア王国の首都として繁栄していましたが、106年にローマ帝国の支配下に入りました。その後、ローマ皇帝トラヤヌスの治世下で、ボスラはアラビア属州の州都として「ノバ・トラヤナ・ボストラ」と改名されました。ローマ劇場は、2世紀後半に建設されたと考えられており、その建設時期は、トラヤヌスの時代にまで遡る可能性も指摘されています。劇場は、その後の歴史の中で、481年から1251年にかけて要塞化されました。東ローマ帝国時代には、劇場は一部変更され、7世紀にはイスラム帝国の支配下に入りました。12世紀には、アイユーブ朝によって要塞として拡張され、防御のために外壁が強化されました。

メッカへの巡礼路の要地であったボスラは、その後、巡礼路から外れるとともに衰退し、劇場は砂に埋もれていきました。しかし、砂に覆われたことが幸いし、劇場の状態は良好に保たれました。1947年から1970年にかけて大規模な修復作業が行われ、現在の姿に復元されました。1980年には、「古代都市ボスラ」の一部として、ユネスコの世界遺産に登録されましたが、シリア内戦の影響で危機遺産にも指定されています。

構造

ボスラのローマ劇場は、斜面を利用せずに平地に建設された珍しい劇場です。黒い玄武岩を主な建材として使用し、修復箇所には淡紅色のエジプト産花崗岩も用いられています。

半円形の座席部分であるカウェアは、北向きに配置され、幅102メートル、6000席の規模を誇ります。最大で約1万5000人の観客を収容できたとされています。座席部は、2本の水平通路によって3つの区画に分けられ、上層6段、中層16段、下層13段の合計37段の階段状になっています。各座席層は、階段によってさらに細かく区切られ、上層は10列、中・下層は7列となっています。座席層の下には、放射状に伸びるヴォミトリウムと呼ばれる筒型のヴォールトがあり、観客はここを通って座席にアクセスできました。座席部の最上段の背後には、列柱が設けられており、劇場全体を囲むように配置されていました。

半円形のオルケストラは直径21メートルあり、左右2か所にあるアディタス・マクシムスと呼ばれる筒型ヴォールト状の通路からアクセスできました。アディタス・マクシムスの上部には、貴賓席であるトリブナリアが設けられていました。舞台前部のプロセニアムは、半円形と角形の窪みが交互に繰り返される独特な形状をしています。舞台であるプルピトゥムは、幅44メートル、奥行き5メートルで、その正面には3階建てのスカエナエ・フロンスと呼ばれる舞台背景が建てられています。スカエナエ・フロンスは、厚い壁で構築され、円柱などの装飾が施され、3つの入口を備えています。

ボスラのローマ劇場は、古代ローマ時代の劇場建築の技術と美しさを今に伝える貴重な遺産です。その壮大なスケールと優れた保存状態は、訪れる人々を圧倒し、歴史の重みを感じさせます。

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