ボスラ

ボスラは、シリアの首都ダマスカスから南へ約150キロメートル、ヨルダンとの国境に近いダルアー県に位置する古代都市です。この地は、玄武岩で造られた黒茶色の建造物が特徴的で、ビザンチン様式の建物が多く残っています。ボスラは、その歴史的、文化的価値からユネスコの世界遺産に登録されており、特にローマ劇場や城塞などの遺跡が有名です。

歴史

ボスラの歴史は古く、紀元前14世紀のエジプトの記録にもその名が見られます。紀元前2世紀にはナバテア王国の最初の都市となり、重要な拠点として発展しました。しかし、106年にはローマ帝国に征服され、ノヴァ・トラヤナ・ボストラと改名されました。この時代には、アラビア属州の州都として、ローマ第3軍団キュレナイカが駐屯し、紅海へ続くローマ街道（トラヤヌス街道）などの交易路が交わる場所として繁栄しました。ローマ帝国の東西分裂後、ビザンチン帝国の時代にもボスラは重要な都市であり続け、バシリカなどの大規模な建築物が建てられました。また、イスラム教の預言者ムハンマドが若い頃に隊商の一員としてこの地を訪れ、アッシリア東方教会の修道士バヒラから将来を予言されたという逸話も残っています。

7世紀には、正統カリフ時代のイスラム国家がシリアに侵攻し、634年のボスラの戦いでビザンチン帝国軍を破り、ボスラを支配下に置きました。イスラム時代には、モスクなどが建設され、高名な神学者イブン・カスィールを輩出しました。12世紀頃には、十字軍の攻撃に備えて要塞化されましたが、その後幹線道路から外れて衰退し、廃墟となりました。

ボスラは、ローマ、ビザンチン、イスラムの各時代の様式が混在する都市遺跡として、2011年のシリア内戦まで多くの観光客を集めていました。内戦中は反政府勢力の支配下にありましたが、2018年に政府軍が奪還し、現在に至っています。

主な構造物

ボスラには、古代の劇場、宗教施設、交易路などが数多く残っています。特に有名なのは以下の通りです。

ローマ劇場: 2世紀に建設された劇場で、保存状態が良く、現在でもコンサートなどで利用されています。屋根付きの柱廊玄関（ポルチコ）を持つこの様式の劇場としては唯一の現存例です。481年から1231年の間に要塞化された歴史も持っています。
城塞（シタデル）: 都市の中央に位置し、ナバテアやローマ時代の遺跡、キリスト教の教会、モスク、マドラサなどが残っています。
アル＝オマリ・モスク: イスラム史の中でも最も古いモスクの一つです。
ローマ時代の橋: Kharaba BridgeとGemarrin Bridgeの二つの橋が近くにあります。

これらの遺跡は、ボスラが古代から重要な場所であったことを物語っており、各時代の文化、技術、信仰を伝えています。

世界遺産登録基準

ボスラは、以下の世界遺産登録基準を満たして登録されています。

(1) 人類の創造的才能を表現する傑作であること: ボスラの遺跡群は、ローマ、ビザンチン、イスラムの各時代の建築技術や芸術性を体現しており、人類の創造的な才能を示す傑作と評価されています。
(3) 現存するまたは消滅した文化的伝統または文明の、唯一のまたは少なくとも稀な証拠であること: ボスラは、ナバテア王国からローマ帝国、ビザンチン帝国、そしてイスラム国家へと、各時代における異なる文化と文明の変遷を伝える貴重な証拠です。
* (6) 顕著で普遍的な意義を有する出来事、現存する伝統、思想、信仰または芸術的、文学的作品と直接にまたは明白に関連するもの: ボスラは、預言者ムハンマドの生涯や、イスラム初期の歴史と深く関わっており、宗教的な観点からも重要な場所であると認められています。

ボスラは、数々の歴史と文化が交錯する場所として、その価値を後世に伝えるために保護されるべき貴重な遺産です。

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