ローラ・T93/30

ローラ・T93/30：BMSスクーデリア・イタリアの苦闘の象徴

ローラ・T93/30は、1993年のF1世界選手権においてBMSスクーデリア・イタリアによって使用されたフォーミュラ1マシンです。設計はエリック・ブロードレイ率いるローラ・カーズの手によるもので、チームにとって大きな転換点となる1台でした。

開発の経緯とマシンの特徴

前年までダラーラ製のシャシーを使用していたBMSスクーデリア・イタリアは、1993年シーズンよりローラへとパートナーを変更するという大胆な決断を下しました。ローラはF3000やインディカーで豊富な経験を持っていましたが、F1専門のセクションは持っていませんでした。そのため、T93/30は既存のF3000マシン「T92/50」をベースに開発されました。

F1レギュレーションに適合させるため、燃料タンクの大型化やフェラーリV12エンジン（Tipo 040）の搭載が行われました。その結果、全長が長く、ホイールベースも3030mmと当時のF1マシンの中でも特に長い車体となりました。また、コクピット内のシフトレバーを前後に操作するシーケンシャル式変速機を採用するなど、独特の設計が盛り込まれていました。興味深いことに、サイドポンツーン入口の形状は前年のマシンとほぼ同じハート型を半分にしたような形状を踏襲しており、設計変更点と伝統のバランスが見て取れます。

搭載されたフェラーリV12エンジンは、信頼性を重視したセッティングが施され、エンジン系のトラブルは少なかった点がマシンの大きな強みの一つでした。しかし、その一方でトップスピードは平凡で、重量バランスもアンバランスな状態でした。その結果、コーナリング性能は低く、競争力を欠いた大きな要因となりました。ホイールは前年同様、ミッレミリアホイール社製を使用していました。

スポンサーシップ面では、マールボロがフェラーリへの支援を集中させたことにより、チームはフィリップモリス傘下の「チェスターフィールド」とのスポンサー契約を締結しました。このため、T93/30はチェスターフィールドのイメージカラーであるネオンオレンジとネオンイエローのストライプが施された、非常に目立つカラーリングをまとっていました。

1993年シーズンの苦戦とチームの崩壊

1993年シーズンのドライバーは、ミケーレ・アルボレートとルカ・バドエルが務めました。しかし、シーズンを通してローラ・T93/30は予選から苦戦を強いられ、多くのレースで最下位付近を走行することになりました。予選落ちを免れて決勝レースに臨むことはできましたが、他のチームと競争できる場面はほとんどありませんでした。

バドエルはマシンの性能に疑問を呈し、アルボレートはチームのエンジニアリング面での問題点を指摘しました。チーム内には技術的なリーダーシップが不足しており、その結果、マシンの改善が遅々として進まず、チームは低迷から抜け出すことができませんでした。

シーズン中盤には、チームはローラとの関係が悪化し、'88年からチームに関わっていたセルジオ・リンランドを招へいするなど、チーム内の混乱は増すばかりでした。最終的に、チームは第14戦ポルトガルGPを最後に撤退し、翌年にはミナルディとの合併へと進んでいきました。ローラ・T93/30は、BMSスクーデリア・イタリアの6シーズンにわたるF1挑戦の終焉を告げる象徴的な存在となりました。また、この年をもってフェラーリV12エンジンの他チームへの供給も終了しました。

スペック

シャーシ名: T93/30
ホイールベース: 3030mm
前トレッド: 1700mm
後トレッド: 1610mm
タイヤ: グッドイヤー
エンジン名: フェラーリTipo040
気筒数・角度: V型12気筒・65度
排気量: 3500cc

ローラ・T93/30は、高いポテンシャルを持ちながら、様々な問題が重なり、その能力を発揮することができなかったマシンと言えるでしょう。このマシンの歴史は、F1における技術開発の難しさ、そしてチーム運営の重要性を改めて認識させてくれます。

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