ローラ・THL2

ローラ・THL2：1986年シーズンのハースF1マシン

ローラ・THL2は、1986年のF1世界選手権でチーム・ハースが使用したフォーミュラ1カーです。設計はニール・オートレイが担当し、チームオーナーであるカール・ハースが所有する設計会社FORCE（Formula One Race Car Engineering）で製造されました。FORCEには、後にF1界で大きな功績を残すロス・ブラウンやエイドリアン・ニューウェイといった才能豊かな技術者たちが在籍していました。

THL2は、前年モデルであるハートエンジン搭載のTHL1をベースに開発されましたが、オートレイによれば、両車には共通部品は一つもなく、設計は大幅に刷新されています。特に、エンジンの小型化により車高が低くなり、空力性能の向上に大きく貢献しました。

搭載されたエンジンは、コスワース・エンジニアリングのキース・ダックワースが開発した新型フォード-TEC V6ターボエンジンです。ギャレット製のターボチャージャーを搭載し、900bhpという高い出力を発生しました。注目すべきは、エンジン制御システムに、フォード本社内の電気電子部品部門が開発した独自のシステム「フォードEEC-1V」を採用した点です。このシステムには宇宙開発技術も取り入れられており、フォードの技術力の高さを示すものとなっています。 エンジン本体は非常にコンパクトで、その小ささはシャシー設計担当者を驚かせたほどでした。

しかし、出力面では、当時1300bhpを超えるルノーやBMWのエンジンには及ばず、これはドライバーのアラン・ジョーンズとパトリック・タンベイにとってフラストレーションの源泉となりました。彼らは予選での好成績のため、よりパワーのある予選用スペシャルエンジンの開発を要求しましたが、ダックワースやフォードは、信頼性を重視し、その要求を拒否しました。

ドライバー陣容は、1980年ワールドチャンピオンのアラン・ジョーンズと、フランス人ドライバーのパトリック・タンベイという強力な組み合わせでした。THL2は2月20日に完成し、イギリス・フォードのテストコースで走行テストを開始しましたが、新燃料規定への対応に時間を要したため、デビューは4月27日のサンマリノGPとずれ込みました。

1986年シーズン、ジョーンズは4ポイント、タンベイは2ポイントを獲得しました。タンベイはオーストリアGPで5位に入賞し、この2ポイントを獲得しました。しかし、チームはメインスポンサーのベアトリス・フーズの撤退に伴い、シーズン終了後にF1から撤退することとなりました。THL2の予選最高位は、タンベイによるハンガリーGPでの6位でした。この結果からも、THL2の高いハンドリング性能が証明されています。

なお、THL2は「ローラ」と呼ばれていましたが、ローラ・カーズとはチームオーナーのカール・ハースとローラ創設者のエリック・ブロードレイの個人的な繋がりがあるという程度で、技術的な関連はありませんでした。THL2は、優れたハンドリング性能を持ちながらも、パワー不足に苦しんだ、実力と魅力を兼ね備えたマシンだったと言えるでしょう。その開発には、後にF1界を牽引する人材が関わっていたという点も、このマシンの歴史的価値を高めています。 チーム・ハースと、そのマシンであるローラTHL2の1986年シーズンは、惜しくも短命に終わってしまいましたが、F1の歴史において重要な1ページを刻んだことは間違いありません。

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