ワシントン・ナショナル交響楽団

ナショナル交響楽団

ナショナル交響楽団（The National Symphony Orchestra）は、アメリカ合衆国ワシントンD.C.を拠点とするオーケストラです。ケネディ・センターを本拠地としており、日本では「ワシントン・ナショナル交響楽団」と呼ばれることもあります。

特徴

「ナショナル」という名称がついていますが、実際には国立のオーケストラではありません。しかし、歴代の大統領就任式で演奏を担当してきた歴史から、「プレジデント・オーケストラ」という異名も持っています。

歴史

ハンス・キンドラー時代（1931年 - 1948年）

1930年にワシントンで設立された79名のオーケストラを母体とし、1931年に正式に発足しました。初年度は24回のコンサートを開催。初代音楽監督には、フィラデルフィア管弦楽団でチェロ奏者を務めていたハンス・キンドラーが就任し、1948年までその任を務めました。キンドラーの在任中には、楽団員は90名にまで増え、年間公演数も97回に達しました。

ハワード・ミッチェル時代（1949年 - 1970年）

キンドラーの後任として、首席チェロ奏者兼副指揮者だったハワード・ミッチェルが音楽監督に就任しました。ミッチェルは1970年までその職を務め、その間、1959年には国務省の支援を受けて中南米19ヶ国へのツアー、1967年には3週間のヨーロッパツアーを成功させました。また、市内公園での野外コンサートや、郊外での夏期フェスティバルコンサートも開始し、地域への音楽普及に貢献しました。これらの功績から、ミッチェルは退任後に名誉指揮者の称号を贈られました。

アンタル・ドラティ時代（1970年 - 1977年）

1970年には、「オーケストラ・ビルダー」と称されたアンタル・ドラティが音楽監督に就任。翌年には、本拠地となるジョン・F・ケネディ・センターが完成しました。ドラティは、ミッチェル時代に停滞していたオーケストラの演奏能力を立て直したと評価されています。彼の在任中は、意欲的な録音活動が展開され、ルイージ・ダラピッコラなどの現代音楽も積極的に演奏・録音されました。また、1976年には、アメリカ合衆国建国200周年を記念して、12の新作が初演されました。

ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ時代（1977年 - 1994年）

1977年には、エドワード・ケネディ上院議員の尽力でソ連から亡命したムスティスラフ・ロストロポーヴィチが音楽監督に就任し、「最も輝かしい時代を迎えた」と評されています。ロストロポーヴィチは、チェリストとしての豊富な人脈を活かし、数多くの著名なソリストを招聘し、オーケストラのレベル向上とファン層の拡大に貢献しました。楽団員やスタッフからは親しみを込めて「スラヴァ」と呼ばれ、厚い信頼を得ていました。

ロストロポーヴィチ以後

ロストロポーヴィチの退任後、レナード・スラットキン、イヴァン・フィッシャー、クリストフ・エッシェンバッハが音楽監督を歴任し、2017-2018年シーズンからはジャナンドレア・ノセダがその任を引き継いでいます。

受賞歴

ジョン・コリリアーノ作曲の「怒りと回想」のCDでグラミー賞を受賞。また、ドラティ時代初期の録音9点のうち6点が国際的なレコード賞を獲得しています。

歴代首席音楽監督等

ハンス・キンドラー (1931–1949)
ハワード・ミッチェル (1949–1969)
アンタル・ドラティ (1970–1977)
ムスティスラフ・ロストロポーヴィチ (1977–1994)
レナード・スラットキン (1996–2008)
イヴァン・フィッシャー (首席指揮者; 2008–2009)
クリストフ・エッシェンバッハ (2010–2016)
ジャナンドレア・ノセダ (2017- )

評価

音楽評論家のクリスチャン・メルランは、アメリカの主要オーケストラを「ビッグ・ファイブ」として、ニューヨーク・フィルハーモニック、フィラデルフィア管弦楽団、クリーヴランド管弦楽団、シカゴ交響楽団、ボストン交響楽団を挙げています。さらに、それに次ぐオーケストラとして、ロサンゼルス・フィルハーモニック、サンフランシスコ交響楽団、ピッツバーグ交響楽団を挙げています。ナショナル交響楽団は、それらに続くグループとして、セントルイス交響楽団、ヒューストン交響楽団などとともに評価されています。

参考文献

音楽之友社編『名演奏家事典（下）』音楽之友社、1982年、ISBN 4-276-00133-1。
上地隆裕『アメリカの交響楽団①』泰流社、1987年、ISBN 4-88470-607-2。
『世界のオーケストラ辞典』芸術現代社、1984年、ISBN 4-87463-055-3。
クリスチャン・メルラン『オーケストラ知りたかったことのすべて』藤本優子、山田浩之共訳、みすず書房、2020年、ISBN 978-4-622-08877-6。