アンタル・ドラティ

アンタル・ドラティ（1906年4月9日 - 1988年11月13日）は、ハンガリー出身で、主にアメリカや北欧で活躍した指揮者・作曲家です。イギリス女王エリザベス2世からナイトの称号を授与されたことでも知られています。

生い立ちと初期のキャリア

ドラティはブダペストで、ブダペスト・フィルハーモニー管弦楽団のヴァイオリニストを父に、ピアノ教師を母に持つ音楽一家に生まれました。幼少期から音楽に囲まれた環境で育ち、フランツ・リスト音楽院でコダーイやバルトークに師事し、作曲とピアノを学びました。18歳で指揮者としてデビューし、ブダペスト国立歌劇場でキャリアをスタートさせました。

その後、ドレスデン国立歌劇場でフリッツ・ブッシュのアシスタントを務め、ミュンスター市立歌劇場の音楽監督に就任するなど、ヨーロッパ各地で活躍しました。しかし、ナチスの台頭により活動の場を奪われ、イギリスへ渡り、モンテカルロ・ロシア・バレエ団の指揮者となります。この時期には、バレエ『卒業記念舞踏会』を作曲したり、ゲオルグ・ショルティに指揮の機会を与えるなど、音楽家としての才能を発揮しました。

アメリカでの活躍

1937年、ドラティはワシントン・ナショナル交響楽団との共演でアメリカデビューを果たし、1940年にアメリカ合衆国に移住、1947年に帰化しました。1945年から1948年までダラス交響楽団の常任指揮者を務め、1949年にはミネアポリス交響楽団（現ミネソタ管弦楽団）でバルトークのヴィオラ協奏曲の世界初演を指揮しました。

その後も、ミネアポリス交響楽団、BBC交響楽団、ストックホルム・フィルハーモニー管弦楽団、ワシントン・ナショナル交響楽団、ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団、デトロイト交響楽団など、数々のオーケストラのポストを歴任し、その手腕を発揮しました。

フィルハーモニア・フンガリカとの活動

ドラティは、ハンガリー動乱後の亡命者を中心に西ドイツで結成されたフィルハーモニア・フンガリカの音楽監督を長く務めました。このオーケストラとは、デッカ・レコードにハイドンの交響曲全集やコダーイの管弦楽曲集などを録音し、世界的な評価を得ました。

レコーディングと作曲

ドラティは生涯に約600点もの録音を残しました。バルトークやコダーイ、ストラヴィンスキーの作品の解釈は特に高く評価されています。また、フィルハーモニア・フンガリカを指揮して行ったハイドンの交響曲全集の録音は、史上初の試みとして音楽史に名を刻んでいます。

作曲家としても、《交響曲第2番》をはじめとする多くの作品を残しており、ヨハン・シュトラウス2世の作品を編曲したバレエ音楽や、オッフェンバックのオペレッタを改編した序曲など、幅広いジャンルで才能を発揮しました。

日本との関わり

1963年には、ピエール・モントゥー、ゲオルク・ショルティと共にロンドン交響楽団の指揮者の一人として初来日しました。1982年には読売日本交響楽団に客演するなど、日本の音楽界にも貢献しました。

オーケストラ再建の手腕

ドラティは、オーケストラ・ビルダーとしての才能にも恵まれていました。危機に瀕したオーケストラを数多く再建し、その名声を取り戻すことに尽力しました。ダラス交響楽団、ミネアポリス交響楽団、フィルハーモニア・フンガリカ、ワシントン・ナショナル交響楽団、デトロイト交響楽団などが、ドラティの手腕によって救われたオーケストラの代表例です。

1988年、ドラティは癌のためスイスの自宅で亡くなりましたが、彼の音楽に対する情熱と才能は、後世に語り継がれています。

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