ワシントン海軍工廠

ワシントン海軍工廠：アメリカ海軍史を語る歴史的建造物

ワシントン海軍工廠は、アメリカ合衆国ワシントンD.C.南東部に位置していたアメリカ海軍の造船所および兵器廠です。1799年の設立以来、2世紀以上にわたり、アメリカ海軍の近代化と発展に大きく貢献しました。現在、その跡地は海軍関連組織の集積地として、重要な役割を担っています。

設立と初期の活動

1799年10月2日、初代海軍長官ベンジャミン・ストッダートと初代工廠長トーマス・ティンジーの指揮の下、工廠の建設が始まりました。ティンジーはその後29年間にもわたって工廠長を務め、工廠の礎を築きました。当初はワシントンD.C.の9番街とMストリート付近に位置し、現在も一部に残る白いレンガの壁がその歴史を物語っています。

最初の年から、工廠は海軍最大の造船所・艤装工場として、大小様々な艦艇を建造しました。小さな砲艦から大型フリゲートまで、22隻もの艦艇がここで建造された記録が残っています。1812年には、アメリカ海軍を象徴する戦艦「コンスティチューション」の修理と戦闘準備もこの工廠で行われました。

米英戦争と南北戦争

米英戦争（1812～1815年）では、工廠は首都防衛の戦略拠点としての重要性を増しました。英国軍の進撃により、工廠の破壊を防ぐため、ティンジーは工廠の焼却を命じました。しかし、彼の私室やラトローブ・ゲートは炎から免れ、現在もアメリカ合衆国国家歴史登録財として保存されています。

南北戦争（1861～1865年）においても、工廠はワシントン防衛の要衝として機能しました。工廠長を務めたフランクリン・ブキャナンは南軍に加担しましたが、その後任となったジョン・ダールグレン中佐は、エイブラハム・リンカーン大統領からの信頼も厚く、工廠は南北戦争における重要な役割を果たしました。有名な装甲艦「モニター」の修理もこの工廠で行われ、リンカーン大統領暗殺事件の容疑者たちもここに連行されました。

技術開発と生産の中心地

19世紀後半から20世紀にかけて、工廠は技術開発と兵器生産の中心地として発展しました。海軍兵器の全製造工場となり、グレート・ホワイト・フリートや第一次世界大戦、第二次世界大戦の艦艇に搭載された兵器の多くを製造しました。第一次世界大戦では、フランス戦線で使用された巨大な列車砲もここで製造されました。第二次世界大戦時には、世界最大の軍需工場となり、精密な光学機器から巨大な砲まで、多岐にわたる兵器を生産しました。

科学技術の発展への貢献

工廠では数々の科学技術上の発明や開発が行われました。ロバート・フルトンによる機雷の研究、ジョン・ロジャースによる曳揚装置の開発、ダールグレンによるダールグレン砲の開発などが有名です。また、船体形状の設計のための水槽や、艦艇用カタパルト、風洞などもここで開発されました。

国際交流と文化的意義

ワシントン海軍工廠は、国際交流の場としての役割も果たしました。1860年には日本の最初の外交使節団が訪問し、その近代的な設備に感銘を受けたと言われています。また、チャールズ・リンドバーグやイギリスのジョージ6世も訪問した記録が残っています。

現代におけるワシントン海軍工廠

1964年に工廠としての活動は終了しましたが、その跡地は現在、海軍博物館や様々な海軍関連組織のオフィスとして利用されています。歴史的な建造物や施設は、アメリカ海軍の歴史と技術発展を伝える貴重な遺産として、大切に保存されています。国家歴史登録財および国定歴史建造物に指定されていることも、その歴史的価値の高さを示しています。

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