ワッカ原生花園

北海道の北東部、オホーツク海に面した北見市常呂町に、類まれな自然景観を誇る「ワッカ原生花園」は広がっています。この原生花園は、北海道最大の湖であるサロマ湖とオホーツク海を隔てるように発達した広大な砂州の上に形成されており、その特異な地理的条件が独特の生態系を育んでいます。

ワッカ原生花園の最も顕著な特徴は、その圧倒的な植生の豊かさです。この砂州という厳しい環境下でありながら、ハマナス、エゾスカシユリ、ハマヒルガオ、ハマボウフウをはじめとする、実に300種を超える多様な草花が自生しています。春から秋にかけて、季節の移り変わりとともに様々な花々が次々と咲き誇り、訪れる人々を色鮮やかな絨毯で迎え入れます。砂丘、湿地、草原といった異なる微地形が存在することにより、それぞれの環境に適応した多種多様な植物が見られるのです。

この原生花園の存在価値は高く評価されており、2001年（平成13年）10月には北海道遺産にも選定されました。これは、ワッカ原生花園が単なる美しい景勝地にとどまらず、北海道が誇るべき自然環境や文化、歴史を象徴する場所であることを示しています。網走国定公園の区域内にあることも、その重要な位置づけを物語っています。

原生花園の砂州上には、一本の道が整備されています。この道は、明治期にこの地を訪れた詩人であり紀行家でもあった大町桂月によって、「龍宮街道」と名付けられました。まるで竜宮城へと続くかのような神秘的で美しい景観に感銘を受けたことから付けられた名前と伝えられています。現在、この龍宮街道は、原生花園を散策するための主要なルートとなっており、歩いてゆっくりと花々を観察するのも良いでしょう。

より広範囲を効率的に楽しむ方法として、ワッカネイチャーセンターではレンタサイクルが利用可能です。広大な砂州の上を自転車で駆け抜けるのは、また格別な爽快感があります。潮風を感じながら、左右に広がるサロマ湖とオホーツク海の景色、そして足元に咲く可憐な花々を同時に楽しむことができるのです。このサイクリングロードは、フラットで整備されているため、体力に自信がない方でも気軽に挑戦できます。

「ワッカ」という名称の由来も、この地の自然と深く結びついています。この名はアイヌ語で「飲み水が・ある・ところ」を意味する「ワッカオイ（wakka-o-i）」が略されたものとされています。砂州という海水と淡水が混ざり合う場所でありながら、真水が得られる場所が存在したことを示唆しており、古くからこの地が人々の生活にとって重要な場所であったことを物語ります。

ワッカ原生花園は、多様な植生、珍しい地形、そして歴史的な謂れが融合した、北海道でも稀有な自然環境です。北海道遺産として守られるべき貴重な財産であり、訪れる人々に感動と癒しを提供してくれる場所です。四季折々の花々はもちろん、広大な空と海、湖が織りなす風景、そして鳥たちのさえずりなど、五感を満たす豊かな体験が待っています。この美しい原生花園の自然は、未来へと大切に引き継がれていくことでしょう。

もう一度検索