ワディ・ラム

ワディ・ラム保護区：砂漠の絶景と悠久の歴史

ヨルダン南部、アカバの東約60kmに位置するワディ・ラム保護区は、赤褐色の砂岩と花崗岩が織りなす、息を呑むような景観が広がる世界遺産です。アラビア語で「高い谷」を意味するこの地は、ヨルダン最大のワーディー（涸れ川）であり、その雄大な自然と豊かな歴史から、多くの観光客を魅了しています。

悠久の歴史を刻む大地

ワディ・ラムの歴史は古く、先史時代から数多くの文化が栄えてきました。ナバテア王国の人々が刻んだ壁画や岩絵、遺跡などは、当時の生活様式や信仰を垣間見ることができる貴重な遺産です。特に、ナバテア人が生活していた時代の名残を垣間見れるKhaz'ali渓谷のペトログリフは必見です。

西洋では、第一次世界大戦中のアラブ反乱で活躍したイギリス人将校、T・E・ロレンスとの関わりで知られています。ロレンスは幾度となくこの地を訪れ、彼の冒険譚はワディ・ラムの知名度を上げる一因となりました。ただし、彼の著作『知恵の七柱』に登場する「七柱」と、ワディ・ラムの岩石との関連性はないとされています。

壮大な自然と多様なアクティビティ

保護区内には、標高1840mのウム・ダーミー山など、起伏に富んだ地形が広がっています。晴れた日には紅海やサウジアラビアの国境まで見渡せる絶景も魅力です。標高1374mのジャバル・ラムは、ワディ・ラム中央部で最も高い山です。

ワディ・ラムは、登山家やトレッカーにとって楽園のような場所です。ベドウィンの人々が代々伝えてきた伝統的な登山ルートは、現代のクライマーたちによって再発見され、ガイドブックなどに記録されています。近年では、エコツーリズムも盛んで、ベドウィンの人々は観光客向けに、ラクダ乗り体験や星空観察、ハイキング、ロッククライミングなどのアクティビティを提供しています。ジャバル・イシュリーンでの地方マラソン大会も人気です。

映画の舞台として

ワディ・ラムの独特の景観は、多くの映画監督たちを魅了してきました。1962年の『アラビアのロレンス』をはじめ、『レッドプラネット』（火星表面として）、『プロメテウス』（エイリアンの惑星として）など、数々の作品でその雄大な風景が活用されています。マット・デイモン主演の『オデッセイ』でも火星のシーンが撮影され、その圧倒的な美しさに感嘆の声が上がっています。また、『スター・ウォーズ／スカイウォーカーの夜明け』でも撮影が行われたことが発表されています。

文化と自然の調和

ワディ・ラムのベドウィンの人々の伝統的な文化は、ユネスコの無形文化遺産にも登録されています。彼らは、この地で暮らす人々との調和を保ちながら、観光業を積極的に発展させています。数百人のベドウィンの人々は、伝統的な生活様式を維持しつつ、観光客に砂漠の文化や自然を体験させることで、生活の糧を得ています。

世界遺産としての価値

ワディ・ラム保護区は、2011年に世界遺産に登録されました。その登録基準は、文化的伝統や文明の稀な証拠、伝統的集落の優れた例、そして際立った自然美などが挙げられています。この地は、歴史、文化、そして自然が一体となった、かけがえのない場所と言えるでしょう。

ワディ・ラム保護区を訪れる際には、その歴史と自然の偉大さに触れ、ベドウィンの人々の温かいおもてなしに触れてみてください。忘れられない旅の思い出が、きっと作れるでしょう。

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