ペトログリフ

ペトログリフ：太古のメッセージが刻まれた岩面彫刻

ペトログリフとは、岩[[石]]や洞窟の壁面に刻まれた彫刻のことです。ギリシャ語の「石」を意味するペトロと「彫刻」を意味するグリフを組み合わせた造語で、日本語では「線刻」「岩面彫刻」「岩[[石]]線画」「岩面陰刻」などと呼ばれます。しばしば混同される岩に描かれた絵画であるペトログラフとは、学問上は明確に区別されています。ペトログリフは彫刻、ペトログラフは絵画であり、表現技法に違いがあるためです。

ペトログリフの歴史と目的

世界最古のペトログリフは、ウクライナのカメンナヤ・モグリャにある旧[[石器時代]]のものとされ、約1万～1万2000年前のものと推定されています。その後、紀元前7000～9000年頃には絵文字や表意文字のようなものが登場し始めます。ペトログリフは、古代の人々が後世に伝えたい情報や思想、信仰などを表現した手段であったと考えられています。

ペトログリフの目的は多岐に渡ります。天文学的な記号、地図、記号的なコミュニケーション、儀式の副産物、文化・宗教的な象徴など、様々な解釈が提示されています。例えば、インドのペトログリフの中には、ロックゴングという楽器と確認されたものもあります。また、スカンジナビアの青銅器時代以降のペトログリフには、宗教的な意味に加え、部族間の領土境界を示すものも存在します。地域差もあり、シベリアのものは初期のルーン文字のような形状のものも見られます。

ペトログリフの研究

ペトログリフの研究は、考古学と美術史の両面から行われています。考古学的には、古代の人々の生活様式、社会構造、信仰などを推測する上で重要な手がかりとなります。また、文字の起源を探る上でも貴重な資料です。美術史の観点からは、古代の人々の美的感覚や芸術表現を研究することができます。

研究においては、岩[[石]]の風化による損傷や誤認、遺跡の改竄・捏造といった問題にも対処する必要があります。

世界各地のペトログリフと共通性

世界中で発見されているペトログリフは、GPSデータを用いた分析により、紀元前3000～7000年頃の作品に共通性が見られることが分かっています。例えば、うずくまる人、キャタピラー、梯子、アイマスク、ココペリ（インディアンの神様）、輪留めをかけられた車輪といったモチーフが、広範囲にわたって共通して見られます。

この共通性の理由については、様々な説が提唱されています。

世界的移動説:特定の集団が、ある地域から世界中に広まったという説。
遺伝説:人間の脳に遺伝的に組み込まれた構造によるものという説。ユング心理学やミルチャ・エリアーデの考え方に基づいています。
薬物説:幻覚剤の使用による精神状態の変化によって作られたという説。

日本のペトログリフ

日本でも、北海道の手宮洞窟やフゴッペ洞窟など、いくつかの遺跡でペトログリフが発見されています。「日本先史岩面画研究会」など、ペトログリフの研究を行う団体が活動しており、国内外の学会で研究成果を発表しています。

主要なペトログリフ遺跡

ペトログリフは世界中に存在し、アジア、アフリカ、北アメリカ、中南米、ヨーロッパ、オセアニアなど、様々な地域で発見されています。代表的な遺跡としては、以下のようなものがあります。（以下、地域ごとに主な遺跡を列挙）

アジア
日本：手宮洞窟（北海道）、フゴッペ洞窟（北海道）
韓国：盤亀台岩刻画（蔚山市）
中国：東龍洲、滘西洲、蒲台島、長洲、石壁（香港）、黄竹坑、大浪灣（香港）、龍蝦灣（香港）、陰山山脈、寧夏回族自治区
台湾：茂林区
フィリピン：アンゴノの岩絵群
アゼルバイジャン：ゴブスタン国立保護区
カザフスタン：タムガリ
キルギス：チョルポン＝アタ
モンゴル：モンゴル・アルタイ山脈の岩絵群

アフリカ
アルジェリア：タッシリ・ナジェール
タンザニア：コンドアの岩絵遺跡群
ナミビア：トゥウェイフルフォンテーン
ボツワナ：チョベ国立公園、ツォディロ
リビア：タドラルト・アカクス
マラウイ：チョンゴニの岩絵地域

北アメリカ
アメリカ合衆国：アーチーズ国立公園、アラヴァ岬、オリンピック国立公園、化石の森国立公園、キャニオンランズ国立公園、キャピトル・リーフ国立公園、セドナ、セント・ジョン島、デスヴァレー国立公園、チャコ文化国立歴史公園

中南米
アルゼンチン：タランパヤ国立公園
ニカラグア：オメテペ島
メキシコ：シエラ・デ・サン・フランシスコの岩絵群
ブラジル：セラ・ダ・カピバラ国立公園

太平洋・オセアニア
オーストラリア：アーネムランド
フランス領ニューカレドニア
ハワイ諸島
バヌアツ：ロイ・マタ首長の領地
イースター島

ヨーロッパ
アイルランド：ニューグレンジ、ノウス、ドウス、タラの丘
イギリス：ノーサンバーランド、ダラム
イタリア：ヴァルカモニカの岩絵群
スウェーデン：ターヌムの岩絵群
スペイン：イベリア半島の地中海沿岸の岩絵
ポルトガル：コア渓谷の先史時代の岩絵遺跡群
ノルウェー：アルタの岩絵
フィンランド：ハンコ
* ロシア：ペトロザヴォーツクのペトログラフ公園、トムスカヤ・ピサニツァ（ケメロヴォの近く）

これらの遺跡は、太古の人類の文化や歴史を知る上で貴重な資料であり、今後も継続的な研究が必要です。

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