ワルツ第6番 (ショパン)

ワルツ第6番 変ニ長調 作品64-1

フレデリック・ショパンの手によるピアノ独奏用ワルツであり、その創作活動の晩期にあたる1846年から1848年にかけて作曲された作品です。正式名称はワルツ第6番 変ニ長調 作品64-1ですが、日本ではその軽快な曲想から『小犬のワルツ（子犬のワルツ）』の愛称で広く親しまれており、フランス語では「Valse du Petit Chien」と呼ばれます。英語圏では「Minute Waltz」という呼び名でも知られており、これは演奏時間が1分程度であることに由来するとも言われますが、実際に1分以内で演奏するのは高度な技術を要するため容易ではありません。本作はデルフィーヌ・ポトツカ伯爵夫人に献呈されました。

作品64の中での位置づけ

ショパンの作品64は3曲のワルツで構成されており、第1曲である本作は、後に続く有名な嬰ハ短調の第2曲や、転調による色彩感豊かな変イ長調の第3曲とは対照的な、明るく輝かしい性格を持っています。作品集の冒頭にこのように明朗な楽曲を配置し、続く曲でより陰影のある深刻な表現を盛り込むという構成は、ショパンが他の作品集でも用いた常套手段です。『華麗なる円舞曲』作品18や『軍隊ポロネーズ』作品40なども、同様の手法で発表されています。

作曲の背景

本作の作曲には、ショパンの親しい関係にあった作家ジョルジュ・サンドにまつわる微笑ましい逸話が伝えられています。サンドが飼っていた可愛らしい子犬が、自身の尻尾を追いかけて楽しげにくるくると回転する様子を見たサンドが、ショパンにその情景を音楽で表現してほしいと依頼したことから、即興的にこの曲が生まれたとされています。曲の中盤に現れる印象的な高く短い音は、その子犬が首輪につけていた鈴の音を表しているという解釈もあり、この説が『小犬のワルツ』という愛称をより一層定着させています。

楽曲の構成と特徴

楽曲は複合三部形式で構成されており、主部と中間部（トリオ）、そして主部の再現部という構成をとります。主要な楽想としては、第1部で奏されるリズミカルかつ美しい、右手の駆け巡るようなスケールと、中間部（トリオ）で現れる甘く歌謡的なメロディが挙げられます。変ニ長調で開始されるこの曲は、まず右手の独白的な旋律が現れ、その後、左手による規則的なワルツのリズムが加わります。楽譜には、冒頭の主題に含まれる変イ音にトリルを付ける版と、トリルを付けない版が存在しており、演奏によって選択される場合があります。

関連情報と編曲

本作はクラシック音楽の枠を超え、様々なメディアで使用されています。例えば、NHK教育テレビで放送されたアニメ『忍たま乱太郎』第5シリーズでは、エンディングテーマとして、「ヘムヘムのワルツ」と題され、声優の松尾銀三によるカバーバージョンが使用されました（1998年放送）。また、このメロディに山川啓介が歌詞をつけた歌曲版も存在し、森山良子の歌唱で知られています。

クラシック演奏家にとっては、技巧的な編曲も多数存在します。かつてアメリカの"Music Treasure Publications"社から、本作に基づく13曲もの技巧的な編曲を集めた楽譜が出版されました。この編曲集には、シグモンド・ジョゼッフィ、モーリツ・ローゼンタール、イジドール・フィリップ（2曲）、マックス・ライストナー、ジュゼッペ・フェラータ（2曲）、ミヒャエル・フォン・ザドラ、モーリツ・モシュコフスキ、アレクサンダー・ミハウスキ、ジョー・ファースト（本名ジョセフ・ファーステンバーグ）、カイホスルー・シャプルジ・ソラブジといった、著名なピアニストや作曲家による編曲が収められています。中でもジョー・ファーストによる「Showpan Boogie」は、原曲をブギウギスタイルに大胆にアレンジした異色の作品であり、ソラブジによる「Pastiche on Minute Waltz of Chopin」は、原曲を基に複雑な対位法や装飾音を駆使した長大なパスティーシュです。これらのうち2曲を除く11曲は、ピアニストのフレドリク・ウレーンによって録音され、「Got a Minute?」（邦題『超絶のショパン』）と題されたCDとしてBISレーベルからリリースされています。このCDには、当該編曲集以外のショパン作品に基づく編曲も収録されています。上記の編曲集以外にも、技巧的な編曲で知られるレオポルド・ゴドフスキーをはじめ、他の作曲家やピアニストによっても、本作に基づいたピアノ編曲が複数作られています。

参考文献として、『ショパン ワルツ集（遺作付）』（全音楽譜出版社、野村光一解説）などが挙げられます。本作の楽譜は、国際楽譜ライブラリープロジェクトなどで入手可能です。

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