カイホスルー・シャプルジ・ソラブジ

カイホスルー・シャプルジ・ソラブジ（Kaikhosru Shapurji Sorabji, 1892年 8月14日 - 1988年 10月15日）は、20世紀のイギリスを代表する作曲家、ピアニスト、そして評論家です。エセックス州チンフォードに生まれた彼は、インド系のパールシーである父とイングランド人の母という異文化的な背景を持っていました。

音楽の道をほぼ独学で歩んだソラブジは、作曲とピアノ演奏の技術を自身で磨き上げました。若き日には、著名な作曲家・ピアニストであるフェルッチョ・ブゾーニにその才能を見出され、演奏活動の機会を得ました。彼の初期の作品、例えばピアノソナタ第1番や第2番はブゾーニに献呈されています。

ソラブジの作風は、マックス・レーガー、レオポルド・ゴドフスキー、ニコライ・メトネル、カロル・シマノフスキ、フレデリック・ディーリアスといった後期ロマン派の大家たちの音楽語法を深く吸収し、それを独自の稠密なテクスチュアと複雑な構造へと発展させたものでした。また、彼は友人であった作曲家ピーター・ウォーロック（フィリップ・ヘセルタイン）の協力を得て、音楽評論家としても活動し、当時の音楽界に対して鋭い洞察を示しました。

彼のキャリアにおいて特筆すべき出来事の一つに、1930年代に自作の公開演奏と出版に対する制限を行ったことが挙げられます。これは、自身の作品が意図した通りに演奏されない現状に対する失望から生じた行動でした。しばしば「演奏禁止」と誤解されて語られますが、実際には求められても許可しなかったという形であり、全面的な禁止ではなかったことが後の研究で明らかになっています。

この時期以降、ソラブジの作品はますます巨大化する傾向を見せ始めました。彼の最も有名な作品であるピアノのための「オプス・クラビチェンバリスティクム」（1930年作曲）は演奏に4時間以上を要しますが、これに続く作品群には5時間を超えるものも珍しくありません。特に「交響変奏曲（ピアノリダクション版）」（KSS-59, 1935年 - 1937年）は9時間近くにも及ぶと言われ、その途方もない演奏時間は彼の名を世界に知らしめる一因となりました。彼の壮大な作品群は、しばしばジャコモ・マイヤベーア、リヒャルト・ワーグナー、アントン・ブルックナー、グスタフ・マーラー、ハヴァーガル・ブライアンといった大作志向の作曲家や、オリヴィエ・メシアン、ジョン・ケージ、モートン・フェルドマン、カールハインツ・シュトックハウゼンなど、後世の作曲家と比較論じられます。

ソラブジが得意とした形式の一つにパッサカリアがあります。数百回にも及ぶ主題の反復に耐えうる変奏技法は、彼の作曲技術の真骨頂を示すものです。彼のピアノ作品はしばしばピアニストの技術的な限界に挑戦するものと見なされますが、ソラブジ自身は単に音量を誇示するような豪快な演奏ではなく、より繊細で緻密な表現を求めていたようです。

ソラブジが初めて自作の公開演奏を許可したピアニストはエゴン・ペトリでしたが、ペトリが積極的にソラブジ作品に取り組むことはありませんでした。また、ピアニストのグンナー・ヨハンセンは、「オプス・クラビチェンバリスティクム」の演奏依頼を自身の技術不足を理由に辞退したと伝えられています。

ソラブジの名がより広く知られるようになったのは、「オプス・クラビチェンバリスティクム」の圧倒的な演奏困難さと、ジェフリー・ダグラス・マッジやジョン・オグドンといったピアニストによる録音を通じてでした。ただし、この作品は彼の全作品の中では比較的初期に位置し、譜面の工夫もあって後年の作品ほどの極端な難解さはないとも言われています。ソラブジの個性が真に爆発するのは、「超絶技巧百番練習曲」（1940年 - 1944年）や「『怒りの日』によるセクエンツァ・シクリカ」（1948年 - 1949年）といった1940年代の作品群です。この時期から、複数の譜段を使用したり、考えられないほど長い反復周期を取り入れたりする独特の書法が常態化し、さらに手を鍵盤に密着させて生み出す「擬似トーン・クラスター」のような音響効果も顕著に見られるようになります。

ソラブジは晩年にかけて、自作自演の大量の録音を残しました。そして1970年代に入ると、再び自作の公開演奏を許可するようになります。マイケル・ハーバーマンやヨンティ・ソロモンといったピアニストがソラブジ作品の演奏を始め、停滞気味であった当時の前衛音楽とは対照的に、ソラブジ作品への再評価が世界的に進みました。ソロモンは1977年にピアノソナタ第3番や「コンチェルト・ペル・スオナーレ・メ・ソロ」の世界初演を行い、ハーバーマンは比較的小規模な作品を録音してLP化を実現しました。この時期もソラブジの創作意欲は衰えず、規模は全盛期ほどではないにせよ、「交響的ノクターン」やピアノ交響曲第6番など、2時間近くに及ぶ作品が書かれています。

1980年代には、マッジやオグドンといった熱心な擁護者たちの説得に応じ、ソラブジはついに彼らに「オプス・クラビチェンバリスティクム」の全曲演奏を委ねます。マッジは1982年にユトレヒトで歴史的な全曲公開初演を果たしました。この時すでにソラブジは90歳近かったにもかかわらず、マッジは彼について「老いを感じさせず、思いのほか早口で喋った」と回想しています。この演奏は後にLP化されましたが、録音状態があまり良くなかったためCD化はされていません（ただし、マッジによる別の機会の演奏はCD化されています）。オグドンもロンドンでの初演を担いましたが、この演奏会の後にソラブジとオグドンは相次いで世を去りました。

ソラブジの没後も、アレクサンダー・エイバークロンビー、ドンナ・アマート、マルカンドレ・アムラン、ジョナサン・パウエル、ライニール・ヴァン・ホウト、フレドリク・ウレーン、テレフ・ジョンソン、ダーン・ファンデウァレなど、多くのピアニストたちが彼の作品の普及に貢献しています。彼のピアノ作品の演奏については、運指法に論理的な矛盾はなく、根気強く取り組めば演奏不可能ではないという見解を持つ演奏家が増えています。一方で、指の関節で黒鍵を押す、2指と5指でオクターブを弾くといった彼独特の運指は、多くのピアニストにとって大きな課題であることもまた事実です。

ソラブジ作品の研究と普及を支えているのが、彼の自筆譜のコピーを提供し続けてきたソラブジ・アーカイブです。近年では有志の協力により、コンピューターのノーテーションソフトを用いた譜面の清書作業も進められており、これまで以上に多くの研究者や演奏家が彼のユニークな音楽世界に触れることができるようになっています。

彼の作品は、その規模、複雑さ、そして演奏史における特異な位置づけから、20世紀ピアノ音楽史において独自の孤高の地位を占めています。主要作品には、前述のものの他、ピアノ交響曲（第1番、第2番、第4番、第6番）、オルガン交響曲（第2番、第3番）、交響変奏曲（管弦楽版）などがあります。

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