ヴァイオリンソナタ (ショスタコーヴィチ)

ショスタコーヴィチ：ヴァイオリン・ソナタ ト長調（ト短調）作品134

ソビエト連邦を代表する作曲家、ドミートリイ・ショスタコーヴィチ（1906-1975）によるヴァイオリンとピアノのためのソナタ ト長調（ト短調）作品134は、1968年に書かれました。この作品は、ショスタコーヴィチが生涯を通じて深い信頼関係を築いた偉大なヴァイオリニスト、ダヴィッド・オイストラフ（1908-1974）へ献呈されたものです。ショスタコーヴィチがヴァイオリンのために作曲した主要作品は、ヴァイオリン協奏曲が2曲とこのソナタの合わせて3曲があり、いずれもオイストラフのために書かれています。このソナタは、既にオイストラフに捧げられていた2つの協奏曲に続く重要な作品と位置づけられます。

作曲の背景と初演

作品134は、オイストラフの60歳の誕生日（9月30日）を記念して作曲が計画されました。作曲は1968年8月21日、レニングラード近郊のレーピノで開始されました。ショスタコーヴィチはオイストラフの誕生日に間に合わせようと筆を進めましたが、完成は誕生日を過ぎた10月23日となりました。興味深い説としては、当初1967年に完成したヴァイオリン協奏曲第2番がオイストラフの誕生日記念作品となるはずでしたが、作曲家が誕生日を1年勘違いしていたため、改めてこのヴァイオリン・ソナタが書かれたとも言われています。

初演は、作曲された年のうちに行われる予定でしたが、オイストラフの多忙なスケジュールにより延期となりました。翌年、1969年5月3日にモスクワ音楽院大ホールにて、オイストラフ自身のヴァイオリンと、これまた当代きっての巨匠ピアニスト、スヴャトスラフ・リヒテル（1915-1997）のピアノという、まさに理想的な顔合わせによって世界初演が実現しました。この顔合わせからも、作品が持つ芸術的な重要性がうかがえます。

楽曲の構成

本ソナタは全3楽章で構成されており、演奏時間は約31分を要します。晩年のショスタコーヴィチらしい、内省的でありながらも緊張感に満ちた音楽が展開されます。

第1楽章：アンダンテ（Andante）

ト長調で書かれたこの楽章は、ソナタ形式を基盤としながらも、その枠にとらわれない自由な形式で展開されます。楽章は、ピアノが静かに奏でる4度音程を中心とした上行音型によって幕を開けます。この音型は4オクターヴにわたって大きく波打ち、楽章全体、そして作品全体の性格を決定づける基本的な要素として重要な役割を果たします。続いてヴァイオリンが登場し、ショスタコーヴィチ自身の名前のイニシャルに基づく有名な「DSCH音型」（レ・ミ♭・ハ・ロ）を含む第1主題を提示します。これら二つの主要な音型が組み合わされ、発展を遂げた後、ヴァイオリンによる重音を用いたスタッカートの第2主題が現れます。この第2主題もまた4度音程が中心となっており、展開部ではこれらの要素が絡み合い、緊迫感を高めていきます。

第2楽章：アレグレット（Allegretto）

4分の4拍子、変ホ短調のロンド主題によるスケルツォ楽章です。ヴァイオリンの力強く、推進力のある主題によって開始されます。この主題が提示されると、ピアノが応えるように第1楽章の第2主題に見られた音型を強調しながら応じます。軽快ながらもどこかアイロニカルな雰囲気を持ち、ショスタコーヴィチらしい諧謔的な側面が表れています。

第3楽章：ラルゴ - アンダンテ - ラルゴ（Largo - Andante - Largo）

4分の4拍子で、変奏曲形式を採る終楽章です。冒頭のラルゴは、バロック時代のフランス風序曲を彷彿とさせるかのような、重厚で荘厳な導入部となっています。ピアノとヴァイオリンによる激しい付点音符のリズムが特徴的です。8小節の序奏に続き、テンポがアンダンテへと変化し、ヴァイオリンがピッツィカートで主要な主題を力強く奏でます。この主題は、古い変奏主題のような性格を持ち、特に十一半音（増4度）を含む音程が教会旋法を思わせる響きを醸し出しています。この主題をピアノが受け継ぎ、様々な変奏を展開していきます。途中、ヴァイオリンによる弱奏の第2主題が現れます。音楽は徐々にそのエネルギーを失い、内省的な雰囲気を深めていきます。アルバン・ベルクのヴァイオリン協奏曲における十二音技法を想起させるような推移句を経て、結尾部分では冒頭の序奏の要素が回想されます。そして、第1楽章の終結と同様に、静かに、そしてひっそりと全曲が閉じられます。

編成

ヴァイオリン
ピアノ

このソナタは、ショスタコーヴィチ後期の様式が色濃く反映された傑作であり、ヴァイオリンとピアノというシンプルな編成ながらも、両楽器の特性を最大限に引き出し、深遠かつ複雑な音楽世界を構築しています。オイストラフとリヒテルという二人の巨匠によって初演されたことからも、その技術的・音楽的要求の高さがうかがえる作品です。

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