ヴァルテッリーナ

ヴァルテッリーナ：アルプス山中の歴史と自然が織りなすイタリアの秘境

イタリア共和国ロンバルディア州最北部、コモ湖上流のアッダ川沿いに広がるヴァルテッリーナ地方。アルプス山脈に抱かれたこの谷筋は、北にスイス（グラウビュンデン州）と国境を接し、雄大な自然と豊かな歴史を誇ります。主要都市はソンドリオで、ソンドリオ県の中部と東部の大部分を占めています。

地理：アッダ川と支流が織りなす多様な地形

ヴァルテッリーナは、アッダ川とその支流によって形成された複数の谷から構成されています。ヴァルマレンコ（マッレロ川）、ヴァル・マジーノ（マジーノ川）、ヴァッレ・デル・ビット（ビット川）などがその代表的な谷で、いずれもソンドリオ県に属します。地理的には、ポスキアヴィーノ川が形成するヴァル・ポスキアーヴォもヴァルテッリーナの一部と見なされる場合がありますが、この地域はスイス領となっています。また、一部地域はコモ県やレッコ県にもまたがっています。複雑な地形と国境線が、この地方の歴史に大きな影響を与えてきました。

歴史：古代都市から現代の観光地へ

ヴァルテッリーナという地名は、谷の中央部に位置していた古代都市テッリウス（現在のテーリオ）に由来するという説が有力です。この谷は、古代から重要な交通路として機能しており、様々な民族や勢力の影響を受けてきました。6世紀初頭のパヴィーア司教エンノディオの文書には、「Tellina Vallis」としてこの地名が初めて登場します。

16世紀から18世紀にかけては、ヴァルテッリーナはスイスのグラウビュンデンに属していました。当時のグラウビュンデンは、スイス誓約者同盟とは別に独立した存在でしたが、1512年にはキアヴェンナ、ボルミオとともにグラウビュンデン自由国に編入されました。この時代、ヴァルテッリーナはVeltlin、Westtirol、Welsche Vogteienなど、様々な名称で呼ばれていました。

三十年戦争：宗教と勢力争いの舞台

17世紀前半の三十年戦争は、ヴァルテッリーナを戦乱の渦に巻き込みました。北イタリアとドナウ川流域を結ぶ重要なアルプス越えの交通路として、ヴァルテッリーナの支配権はフランスとスペイン、そして地元勢力の激しい争奪の対象となりました。カトリック支持者の多いヴァルテッリーナは、グラウビュンデン自由国によるプロテスタントへの改宗政策に抵抗。1620年にはスペイン軍の支援を受けた反乱軍がプロテスタントを大量虐殺する「聖なる流血」事件が発生し、多くのプロテスタントが殺害されたり、逃亡を余儀なくされました。その後もフランスやスペイン、ハプスブルク家などの様々な勢力が介入し、ヴァルテッリーナを含むグラウビュンデンは複雑な抗争の舞台となりました。

1797年、フランスはチザルピーナ共和国の成立に際し、ヴァルテッリーナをその領土に組み込みました。

近代以降：鉄道電化と観光の発展

近代に入ると、ヴァルテッリーナは鉄道電化において重要な役割を果たしました。ハンガリーのガンツ社が開発した三相交流システムを用いたヴァルテッリーナ線は、本線級路線として世界初の高圧電化路線となり、地域の交通と発展に大きく貢献しました。現在では、豊かな自然と歴史を活かしたスキーリゾートや温泉地として観光地としても発展しています。

文化と食：カトリック文化と伝統料理

ヴァルテッリーナは、ヴァルキアヴェンナとともにコモ司教区に属しており、カトリック文化が深く根付いています。食文化も豊かな地域であり、ヴァルテッリーナ・カゼーラやビットチーズなどの特産チーズ、蕎麦粉を使ったパスタ「ピッツォッケリ」、そしてDOCワイン「ヴァルテッリーナ」などが有名です。

ヴァルテッリーナは、歴史と自然、そして豊かな文化が融合した魅力的な地域です。アルプス山脈の絶景と、数々の歴史的出来事を背景に、現代の観光地として新たな魅力を放っています。

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