ヴァレンス水道橋

ヴァレンス水道橋：イスタンブールの歴史を彩るローマの遺産

ヴァレンス水道橋（トルコ語: Valens Kemeri）は、トルコのイスタンブールにそびえ立つ、古代ローマ帝国時代の壮大な水道橋の遺構です。コンスタンティノープル（現在のイスタンブール）に水を供給するために建設され、その一部は現在も街の風景に溶け込んでいます。本来の全長は約1kmでしたが、現存するのは約800mの部分です。

建設と歴史

水道橋は、イスタンブールがコンスタンティノープルと呼ばれていた4世紀、コンスタンティノープル市長クレアルコスによって建設されました。373年に完成したと考えられています。英語では、完成時の皇帝ウァレンスの名を取りValens Aqueductとして広く知られています。しかし、トルコではBozdoğan Kemeri（「灰色の鷹のアーチ橋」）という通称で親しまれています。

ヴァレンス水道橋は、全長551kmに及ぶウァレンス水道の最末端の一部を構成しています。ウァレンス水道は、北西郊外のベオグラードの森水源、ダナマンドゥラ・プナルカ水源地帯、ヴィゼ水源地帯という3つの水源から、旧市街東部のスルタンアフメト地区にある地下貯水池へと水を運ぶ役割を果たしました。東ローマ帝国を経てオスマン帝国時代まで、イスタンブール旧市街に水を届け続け、最後の補修は1697年に行われました。

現在の様子

水道橋はイスタンブール旧市街のおよそ中央部、ファーティフの丘とエミノニュの丘の間に架かっています。橋脚の下には、アタテュルク大通りが走り、新市街と旧市街を結ぶ交通の要所となっています。アーチとアーチの間を多くの車が行き交う様子は、歴史的な建造物と現代の生活が融合した、イスタンブールならではの風景を作り出しています。

周辺情報

アタテュルク大通り: 水道橋の真下を走る幹線道路で、新市街のベイオール地区やタクスィム広場と、旧市街のアクサライ地区を結んでいます。
ヴァレンス水道: 水道橋の一部である、全長551kmにも及ぶ古代ローマ時代の水道システムです。

参考文献

井上浩一 著「都市コンスタンティノープル」、樺山紘一 編『世界歴史7 ヨーロッパの誕生』岩波書店〈岩波講座〉、1998年。ISBN 4000108271。
南雲泰輔 著「ビザンツ的世界秩序の形成」、南川高志 編『378年 失われた古代帝国の秩序』山川出版社、2018年。ISBN 9784634445024。

ヴァレンス水道橋は、イスタンブールの豊かな歴史を物語る貴重な遺産です。その壮大な姿は、訪れる人々に古代ローマ帝国の技術力と、都市の発展を支えたインフラの重要性を伝えています。

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