ヴァーユ

ヴァーユ - インド神話の風の神

ヴァーユ（サンスクリット: वायु Vāyu、またはワーユ）は、インド神話において風を象徴する神です。その名自体が「風」を意味しています。ヴァーユは、アニラ（Anila）、マルト（Marut）、ガンダヴァハ（Gandhavaha）、パヴァナ、プラーナという様々な別名を持ち、それぞれ異なる特性や役割が与えられています。

ヴァーユの起源と特徴

古代の文献『リグ・ヴェーダ』において、ヴァーユは原人プルシャの生気を受けて生まれたとされています。そのスピード感は、しばしば駿馬に例えられ、2頭の赤毛の馬が牽く車に乗って登場します。さらに、この車には時折インドラ神も御者として乗り合わせることがあるため、ヴァーユはインドラと非常に密接な関係を持っているのです。

ヴァーユはインドラと並ぶ神として考えられ、三界（天、空、地）の中でも空界を担当しています。『リグ・ヴェーダ』では、同じく風を司る神としてヴァータが登場しますが、ヴァーユはより擬人化され、多くの讃歌が捧げられています。特に、イランの風神ワーユとも同一視されることがあります。

ヴァーユの神話と伝承

インド神話の英雄たち、特に『マハーバーラタ』のビーマや『ラーマーヤナ』の猿神ハヌマーンは、ヴァーユの子孫であるとされ、彼の力や影響を受けた存在と考えられています。時代が進むにつれ、彼はインドラや他の神々と共に8つの方角の守護神に配され、特に北西の神として崇められるようになりました。

このように、ヴァーユは単なる風の神にとどまらず、さまざまな神話や伝説の中で重要な役割を果たす存在です。また、彼は仏教の教えにも取り入れられ、風天として知られるようになりました。一方、ゾロアスター教では、彼はインドラと共にダエーワ（悪魔）と見なされるなど、風の概念は宗教や文化によって異なる解釈をされています。

ヴァーユの哲学的意義

インドの哲学において、ヴァーユは五大要素（パンチャマハーブータ）の一つに該当し、風、空気、あるいは気といった概念を象徴しています。このことから、彼は物質的な世界における生命の力やエネルギーの象徴としても認識されています。

ヴァーユに由来する名称

興味深いことに、ヴァーユの名前は現代においても様々な形で使用されています。例えば、かつて東日本フェリーや津軽海峡フェリーが運行していた「ばあゆ」という船名は、この神から名付けられたものです。また、自動車のブランド名「マルチ・ウドヨグ」は、ヴァーユの名（マールティ）に由来し、軽快に走るイメージを想起させるように選ばれています。

ヴァーユの神話は、ただの神の物語にとどまらず、風や大気、さらには生命の本質について深い洞察を与えるものとなっています。彼の存在は、インド文化や哲学において根強い影響を持ち続けているのです。

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