ヴィオランテ (ティツィアーノ)

ティツィアーノの初期傑作「ヴィオランテ」

盛期ルネサンスのヴェネツィア派を代表する画家、ティツィアーノ・ヴェチェッリオが1510年から1515年頃に制作したとされる油彩画『ヴィオランテ』。初期のティツィアーノを特徴づける作品の一つであり、その美しい女性像は多くの人々を魅了してきました。現在はウィーンの美術史美術館に所蔵されています。

作品の特徴

この作品に描かれているのは、観る者に強い印象を与える、美しい女性の4分の3正面像です。生き生きとした肌の質感、輝く金髪、そして華麗なドレスが、彼女の官能的な魅力を一層引き立てています。胸元の肌とドレスのネックラインの間には、紫色の小さなスミレの花が添えられています。女性は左腕を何かに乗せているような仕草を見せています。

『ヴィオランテ』は、《ベッレ・ドンネ》（美しい女性たち）と呼ばれる、理想化された官能的な女性の肖像画の典型とされています。これらの肖像画は、16世紀のヴェネツィアで非常に人気を博しました。しかし、他の作品に見られる寓意的な要素や知的な遊びは、本作品にはあまり見られません。

モデルとなった女性については、ティツィアーノの初期の作品である、『サロメ』、『鏡の前の女』、『フローラ』、『虚栄』などの半身像、そして『バルビの聖会話』に描かれた聖カタリナと同一人物ではないかという指摘があります。

また、古い目録ではこの作品は『ラ・ベッラ・ガッタ』（可愛い猫）と呼ばれていました。現在のタイトルである『ヴィオランテ』は、女性の胸元の花に由来しており、この女性がティツィアーノの愛人であったとされる、パルマ・イル・ヴェッキオの娘ヴィオランテと同一人物である可能性を示唆していますが、確証はありません。

部分的に見られる繊細な筆遣い、装飾模様、そして板絵による色彩の輝きは、ティツィアーノの初期様式を色濃く表しています。また、大公レオポルト・ヴィルヘルムが制作させた目録『テアトルム・ピクトリウム』との比較から、この絵画の右側と下部が切り落とされていることが判明しています。

来歴

絵画は1636年にはヴェネツィアの商人であり美術コレクターのバルトロメオ・デッラ・ナーヴェのコレクションに収められていたことが記録されています。1638年、初代ハミルトン公爵ジェイムズ・ハミルトンが、義理の兄弟で駐ヴェネツィア大使の第2代デンビー伯爵バジル・フィールディングを通じて、ナーヴェのコレクションを購入。その中に本作品も含まれていました。しかし、1649年にハミルトンが清教徒革命で処刑されると、コレクションは大公レオポルト・ヴィルヘルムに売却されました。

『テアトルム・ピクトリウム』では、この絵画はパルマ・イル・ヴェッキオの作品として紹介されています。大公レオポルト・ヴィルヘルムは、宮廷画家ダフィット・テニールスにコレクションの展示風景を何枚も描かせており、その絵画の中に本作品も描かれています。プラド美術館所蔵の『ブリュッセルの画廊における大公レオポルト・ヴィルヘルム』では、額縁に「パルマ」と記されています。20世紀までこの帰属が疑われることはありませんでしたが、1927年に美術史家ロベルト・ロンギによって、ティツィアーノの作品であると再評価されました。

ギャラリー

大公レオポルト・ヴィルヘルム時代に制作された複製画や、ティツィアーノの初期女性像の数々も、この作品への理解を深める上で重要な手がかりとなります。

（ギャラリーは省略）

まとめ

『ヴィオランテ』は、ティツィアーノの初期における傑作の一つであり、その美しい女性像は時代を超えて人々を魅了し続けています。絵画の来歴や制作背景を知ることで、その魅力はさらに深まるでしょう。

参考文献

イアン・G・ケネディー『ティツィアーノ』Taschen（2009年）

外部リンク

美術史美術館公式サイト, ティツィアーノ・ヴェチェッリオ『ヴィオランテ』

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