ヴィルベルヴィント

ヴィルベルヴィント：ドイツ軍の対空戦車

ヴィルベルヴィント（Wirbelwind）は、第二次世界大戦中にドイツ国防軍が運用した対空戦車です。正式名称は「IV号対空戦車ヴィルベルヴィント（Flakpanzer IV Wirbelwind）」、制式番号はSd.Kfz.161/4。「ヴィルベルヴィント」はドイツ語で「つむじ風」を意味します。

概要

この対空戦車は、IV号戦車の車体をベースに、戦車部隊を空からの攻撃から守る目的で開発されました。ドイツ軍は、メーベルワーゲンの不足を補うため、そしてより乗員の防御力が高い対空戦車を求めてオストバウ社に製造を依頼しました。主武装は2cm Flakvierling38四連装機関砲で、低空侵入する襲撃機や戦闘爆撃機には有効でしたが、射程と威力は十分ではなく、高高度の敵機には威嚇程度にしかなりませんでした。

生産性については、IV号戦車の車体に手を加えず、砲塔のみを換装する形式だったため、本来は悪くなかったはずです。しかし、実際には新造ではなく、修理のために戻ってきたIV号戦車を改造したため、総生産数は84両（122両という説もあります）にとどまりました。

対空戦車には、高速で移動する航空機を追尾するために、砲塔の高い旋回速度が求められます。ヴィルベルヴィントは、IV号戦車G・H型をベースに、砲塔旋回モーターと補助発電機を撤去し、新たに油圧旋回機構を搭載することで、砲塔の旋回速度を向上させています。これにより、1周わずか6秒で旋回が可能になりました。しかし、それでも、接近する敵航空機を追尾できない状況も多々ありました。

砲塔には、砲手1名と装填手2名の計3名が収容できますが、指揮官のスペースがないため、指揮官は戦車の脇に立って指揮する必要があり、戦闘中の連携が取りづらく、メーベルワーゲンよりも非効率でした。

構造

砲塔は九角形で、天井が開いています。16mmの鋼板を溶接して組み立てられ、IV号戦車の砲塔リングに合うように設計されました。砲塔前面には、砲身を上下させるための切り欠きがあり、照準器用の小さなハッチがあります。内部には、飛び込んでくる弾片を防御するためのシールドが、切り欠きに沿って取り付けられています。砲塔内部は狭く、後部に車長兼砲手、砲塔の左右に装填手が配置されます。天井は開放されており、砲手の周囲の視界は限定的でした。そのため、指揮官が必要でしたが、指揮官の場所がなかったため、機関室の上で指揮を執ることもありました。

主砲は2cm Flakvierling38です。砲は360度旋回可能で、仰俯角は-10度から+100度です。携行弾薬は榴弾と徹甲弾合わせて3,200発です。

車体はIV号戦車のものがそのまま使われています。車体機銃を始め、ほぼIV号戦車そのままの状態ですが、砲塔旋回用の補助エンジンとその排気管は廃止され、車体後部左右には2cm Flakvierling38の予備銃身収納箱が追加されています。

派生型

2cm Flakvierling38の射程と威力が不十分と判断されたため、後継として、航空機関砲（MK 103機関砲）を転用し、2cm Flakvierling38の砲架に搭載した、威力・射程ともに優れた4連装30mm機関砲（3cm Flakvierling103/38）に換装した「ツェルシュテーラー45（Zerstörer 45、45式対空駆逐車）」が試作されましたが、1両のみの試作で終わりました。

もし45式対空駆逐車が量産されていれば、III号戦車の車体に、2cm Flakvierling38 砲塔（ヴィルベルヴィントが元々搭載していたもの）を流用して搭載した対空戦車が製作される予定だったと言われています。

実戦

1944年 12月18日、アルデンヌに投入されたパイパー戦闘団がアンブレーヴ川を渡河しようと前進中、シェヌーの橋を目指していました。周囲は山道で、右側は険しい岸壁、左側は急峻な谷という状況でした。機動戦闘のための十分なスペースがなく、パイパー戦闘団の62両の車両は、細く長い山道を縦隊で進むしかありませんでした。縦隊は2kmに及びました。

その時、16機のP-47サンダーボルトが襲来。道には遮蔽物がなく、逃げ場もありませんでした。乗員はハッチから逃げ出し、車両の下に隠れました。P-47は機銃掃射と爆撃で縦隊を攻撃しました。戦闘団には2両のヴィルベルヴィントしか有効な対空戦力はなく、あとは車載の機関銃で応戦するしかありませんでした。

ヴィルベルヴィントの車長は状況を的確に判断し、敵機を撃墜することよりも、敵機の侵入経路を妨害することに集中しました。ヴィルベルヴィントにとっては敵が多すぎて、撃墜するほど射撃を集中し続けるのは困難でした。一方、P-47側は爆撃や機銃掃射のために、一定時間直線飛行を維持する必要があり、ヴィルベルヴィントはそのコースを妨害し続けました。8門の2cm Flakvierling38が炸裂弾を発射する様は壮観だったと言われています。

16機のP-47は30分にわたって攻撃を続け、戦車兵や歩兵が負傷しましたが、縦隊に決定的な損害を与えることはできませんでした。対するヴィルベルヴィントは1機を撃墜しました。パイパーSS中佐は、この対空戦車の働きを賞賛しました。

アメリカ側の戦果判定では、車両88両を撃破し、うち32両の戦車を破壊したとされましたが、実際は車両12両撃破、うち戦車2両でした。これは、空中での戦果判定が難しく、過大になりがちであることが理由です。

登場作品

参考文献

ヴィル・フェイ『SS戦車隊下』梅本弘訳、大日本絵画、1994年、76 - 77頁。

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