ヴィンチェンツォ・チマッティ

ヴィンチェンツォ・チマッティ（Vincenzo Cimatti, 1879年7月15日 - 1965年10月6日）は、イタリアのファエンツァ出身のカトリック司祭、宣教師、教育者、作曲家、そして著作家です。サレジオ修道会に所属し、その生涯を教育、音楽、そして日本での宣教活動に捧げました。

生い立ちと修道会への入会

1879年、チマッティは6人兄弟の末っ子として生まれました。幼少期に父親を亡くし、母親は敬虔なカトリック信者でした。兄弟の中には、修道女となった姉や、同じくサレジオ会員となった兄がいます。3歳になる前に、サレジオ修道会の創始者ドン・ボスコと出会ったことが、彼の人生を決定づけました。幼い頃からドン・ボスコを師と仰ぎ、サレジオ会の学校で教育を受け、修道会に入ることを決意しました。17歳で終生誓願を立て、トリノ近郊のサレジオ修道院で修練を積みました。

教育者としての活動

チマッティは、音楽と自然科学の両分野で優れた才能を発揮しました。パルマ音楽大学で音楽のディプロマを取得し、トリノ大学で自然科学と哲学の博士号を取得しました。1905年に司祭叙階後、20年間教師として教鞭を執り、「命令よりも納得」を教育のモットーとしました。ドン・ボスコの教育法を実践し、生徒たちから慕われる教師でした。また、学校の活動のために多くの歌曲やオペレッタを作曲し、教育学や農学の教科書も出版しました。第一次世界大戦中には、トリノでボーイスカウトや登山グループを組織し、貧しい人々の救済にも尽力しました。

日本での宣教活動

1925年、チマッティはサレジオ会の日本への宣教団長として任命され、46歳で日本に派遣されました。1926年に来日し、日本語の学習を始め、宮崎教会の主任司祭に就任。宮崎教区長として、次々と新しい教会を設立しました。1930年には大分に「ドン・ボスコ社」を設立し、日本人司祭育成のため小神学校を設立しました。その後、東京に進出し、練馬区に修練院、神学校、サレジオ短期大学、そして育英工芸学校（現在のサレジオ工業高等専門学校）を設立しました。また、宮崎では見放された年寄りや孤児のための救護院を設立し、その運営のために修道女会を創立しました。

戦時中と戦後の活動

戦前や戦時中には、キリスト教が厳しい監視下に置かれる中、コンサートを通じて音楽を通して教会への理解を深めようと努めました。そのコンサートは全国各地で2000回近く開催されました。1940年に教区長を辞任した後、東京に移り、戦時中は練馬の神学校で過ごしました。戦後、破壊された事業の復興に尽力し、サレジオ会の新たな事業の設立と発展に貢献しました。

音楽と自然科学への情熱

チマッティは、音楽家としても傑出した才能を持っていました。16歳で作曲を始め、来日後も作曲活動を続けました。尋常小学校の国語読本に歌詞を用いて31曲を作曲したほか、日本で最初の日本語ミサ曲や、日本の自然や歴史を題材にした楽曲、オペレッタなど、その作品は950曲に及びました。特に、日本で最初のオペラ「細川ガラシア」はよく知られています。また、自然科学にも深い関心を抱き、イタリアの月刊誌に15年間執筆を続け、農学の教科書や農家のための手引き書も出版しました。宮崎県の動植物の分類に関する書籍をまとめ、天皇に献上したこともあります。

列福調査と資料館

チマッティの死後、カトリック教会では「尊者」認定のための調査が行われました。その結果、1991年に「尊者」の称号が与えられました。現在、福者、そして聖人となるための奇跡が待たれています。1983年には、その功績を称え、サレジオ神学院内にチマッティ資料館が建設されました。資料館には、彼の生涯の品々、手紙、生物標本、音楽の楽譜、写真などが展示されています。

チマッティは、教育、音楽、宣教活動を通じて、多くの人々に影響を与えた人物でした。彼の生涯は、神と人への愛に満ちたものであり、その遺産は今もなお、多くの人々によって受け継がれています。

もう一度検索