ヴェルザンディ

ヴェルザンディ

北欧神話の世界観において、人や世界の運命を織り成す存在として知られるノルン（ノルニル）と呼ばれる女神たちの一柱に、ヴェルザンディがいます。古ノルド語ではVerðandiやVerthandiと表記され、英語圏ではVerdandiとも呼ばれています。

名前と司る意味

彼女の名前「ヴェルザンディ」は、その言葉自体が深い意味を内包しています。古ノルド語におけるその語源は「生成する者」や、さらに広義には「現在」という時間軸を指し示すものと解釈されています。この名前は、彼女が担う役割、すなわち今この瞬間に進行し、形作られていく物事や運命と密接に関わっていることを示唆しています。

神話における役割と描写

ヴェルザンディに関する主な情報は、古代北欧の詩歌集『古エッダ』に収められた予言詩「巫女の予言（ヴァルキューレの予言）」に見いだされます。この詩によれば、ノルンと呼ばれる三柱の女神たちは、世界の中心にそびえ立つ巨大な生命の樹ユグドラシルの根元にある聖なる泉、あるいは根元の海から現れたとされています。三姉妹とは、過去を司るとされるウルズ（Urd）、未来を司るとされるスクルド（Skuld）、そして現在を司ると一般的に解釈されるヴェルザンディです。

「巫女の予言」の中では、ヴェルザンディは姉妹であるウルズと共に、運命を決定づけるための重要な役割を担っています。彼女たちは、木片にルーン文字を刻むという具体的な行為を行うことで、人々の寿命や人生における出来事の流れ、さらには世界の行く末といった運命を定めていると伝えられています。このルーン文字を刻むという行為は、単なる象徴ではなく、力強い言葉や決定が具体的な形で運命に刻み込まれる様を示していると考えられます。

ノルンの三姉妹が過去・現在・未来をそれぞれ司るという解釈は一般的ですが、特にヴェルザンディが「現在」と強く結びつけられるのは、その名前の意味「生成する者」「現在」に由来します。彼女は、過去から引き継がれ、未来へと続いていく時間の中で、まさに今、この瞬間に何が起こり、どのように物事が形作られていくかという、「現在進行形」の運命の側面を象徴していると言えるでしょう。

文献上の位置づけ

興味深いことに、古い時代の北欧詩においては、ヴェルザンディが明確に登場し、その役割が語られているのは『古エッダ』の「巫女の予言」のみであるとされています。これは、ノルンという概念自体は古くから存在したものの、三姉妹それぞれの名前や具体的な役割分担、特にヴェルザンディという名を持つ女神の存在が、この詩が編まれた時代において確立された、あるいは強調された可能性を示唆しています。

ヴェルザンディは、ウルズ、スクルドという他のノルンと共に、北欧神話における運命論を理解する上で欠かせない存在であり、人知を超えた力の象徴として語り継がれています。

関連項目：
ノルン
ウルズ
* スクルド

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