ヴォーグ (曲)

マドンナの楽曲『ヴォーグ』

『ヴォーグ』（Vogue）は、1990年にマドンナが発表した楽曲であり、アルバム『アイム・ブレスレス』からの先行シングルとしてリリースされました。この曲は、ポップ音楽史に残るダンスクラシックとして広く知られています。

解説

「ヴォーグ」は、本国アメリカにおいてマドンナ最大のヒット曲の一つであり、当時メインストリームを席巻していたハウス・ミュージックを代表する曲としても知られています。また、ニューヨークのサブカルチャーから生まれたダンス・ムーブメント「ヴォーギング」を一躍世界中に広めるきっかけとなりました。

この楽曲はマドンナのキャリアにおいて重要な作品であり、その後の彼女の音楽的な進路を大きく変える基盤となりました。曲中では、彼女が敬愛する往年のハリウッドスターたちの名前をラップで歌い上げ、古き良きアメリカ文化への憧憬を表現しています。具体的には、グレタ・ガルボ、マリリン・モンロー、マレーネ・ディートリヒ、ジョー・ディマジオ、マーロン・ブランド、ジェームズ・ディーン、グレース・ケリー、ジーン・ハーロウ、ジーン・ケリー、フレッド・アステア、ジンジャー・ロジャース、リタ・ヘイワース、ローレン・バコール、キャサリン・ヘプバーン、ラナ・ターナー、ベティ・デイビスといった名優たちが登場します。

1990年のMTV Video Music Awardsでは、マリー・アントワネットに扮してこの曲をパフォーマンスし、大きな話題を呼びました。このパフォーマンスは、VHS、LD、DVDで発売されたMV集『ベスト・ヒット・コレクション』に収録されているほか、マドンナの公式YouTubeチャンネルでも公開されています。

2015年のアルバム『レベル・ハート』に収録された「ホーリー・ウォーター」では、本楽曲が引用されています。さらに、2022年にはビヨンセが自身の楽曲「ブレイク・マイ・ソウル」に本曲を用いたリミックス「The Queens Remix」を発表し、ラップ部分ではオリジナルのハリウッドスターに代わってマドンナと著名な黒人女性アーティストの名前を挙げています。

誕生の背景

「ヴォーグ」が楽曲として誕生し、シングルとして発表されるに至ったのは、偶然の要素が大きかったと言えます。1989年にアメリカで発表されたシングル「オー・ファーザー」がビルボード・チャートで20位に留まり、1983年以来続いていた連続トップ10記録が17曲で途絶えてしまいました。これを受けて、次のシングル「キープ・イット・トゥゲザー」の不発を懸念したワーナー・ブラザース・レコードは、「キープ・イット・トゥゲザー」のB面に新曲を収録することを提案し、マドンナに新曲の作曲を依頼しました。こうして出来上がったのが「ヴォーグ」であり、「キープ・イット・トゥゲザー」の発売に間に合わせるため、短期間で書き上げられたと言われています。しかし、デモを聴いたワーナーの重役たちはその出来に驚き、B面として発表することを惜しみ、シングルとしてのリリースをマドンナに勧めたのです。

シェップ・ペティボーンとハウス・ミュージック

作曲パートナーには、「イントゥ・ザ・グルーヴ」のミックスから「エクスプレス・ユアセルフ」、そして「キープ・イット・トゥゲザー」のシングル・ミックスを担当したシェップ・ペティボーンが起用されました。彼はニューヨークのクラブ・シーンで既に名を知られていたDJであり、ポップ界におけるハウス・ミュージックの仕掛け人として、ペット・ショップ・ボーイズなどと仕事をしていました。

「フォー・オン・ザ・フロアー」というドラムマシンによるリズム・パターン、ベース・ライン、スネアドラム・シーケンスなど、ハウス・ミュージックの特徴的なサウンドを持つ「ヴォーグ」は、当時シカゴやニューヨークなどの大都市圏を超えてメインストリームで人気を得始めたハウス・ミュージックの知名度向上に貢献し、その商業的な成功を決定づけました。この楽曲は、その後のマドンナの音楽的な進路に大きな影響を与え、シェップ・ペティボーンは後に『ウルトラ・マドンナ〜グレイテスト・ヒッツ』のQ-サウンド・リミックスを手掛け、アルバム『エロティカ』ではプロデューサーとして全面的に起用されました。1990年代のマドンナの音楽性は、ハウス・ミュージックから始まり、後にエレクトロニカへと接近するなど、ダンス的な要素が増し、よりアンダーグラウンドで斬新なサウンドへと変遷していきました。

プロモーションビデオ

デヴィッド・フィンチャーが監督を務めたプロモーション・ビデオは、白黒の映像で、マニッシュなスーツを着てセクシーなポーズをとるマドンナや、サビでヴォーギングと呼ばれるダンスを無表情で披露するダンサーたちの姿が印象的です。このビデオは、ヴォーギングを世間に広めるきっかけとなり、マドンナの代表的なダンスとしても知られるようになりました。

もう一度検索