ヴカシン・ムルニャヴチェヴィチ (セルビア王)

ヴカシン・ムルニャヴチェヴィチ：セルビアの僭主

ヴカシン・ムルニャヴチェヴィチ（1320年？ - 1371年）は、14世紀にセルビアとマケドニアの一部を支配した人物です。彼は「セルビア人とギリシャ人の王」を自称し、その短いながらも激動の生涯は、当時のバルカン半島の政治情勢を色濃く反映しています。

出自

ヴカシンの出自については、いくつかの説があります。17世紀の歴史家マブロ・オルビンによれば、ヴカシンとその兄弟ヨヴァン・ウグリェシャは、ボスニア西部のリヴノで生まれました。彼らの父は、フム（現在のザクルミア）出身の小貴族Mrnjavaとされています。Mrnjavaという人物は、1280年のラグーザの文書にも記録されており、セルビア王ステファン・ウロシュ2世ミルティンの母ヘレナの会計係を務めたという記述も存在します。フムがボスニア王国に併合された後、Mrnjava一家はリヴノに移住し、セルビアを支持したと考えられています。

生涯

セルビア帝国がマケドニア南部に勢力を拡大する中で、ヴカシンは頭角を現します。1350年ごろ、彼はステファン・ウロシュ4世によってプリレプのジュパン（地方統治者）に任命されました。ヴカシンはプリレプで力を蓄え、1355年にウロシュ4世が急死すると、セルビアの有力者の一人として認められるようになります。ウロシュ4世の後を継いだステファン・ウロシュ5世は、ヴカシンにデスポット（僭主）の称号を与え、1365年には共同統治者として「セルビア人とギリシャ人の王」の称号を授けました。ヴカシンはプリズレン、スコピエ、プリレプを支配し、兄弟であるセラエ（セレス）のデスポット、ウグリェシャと良好な関係を保ちました。こうしてヴカシンは、ウロシュ5世と肩を並べるほどの権力を手に入れたのです。

1370年、ヴカシンはアトス山の修道院に寄付を行い、バルカン半島で勢力を拡大しつつあったオスマン帝国との戦いに備え始めます。1371年6月にはトレビニェを攻撃する計画を立てますが、実行には至りませんでした。同年9月、ヴカシンはウグリェシャと反オスマン連合を結成し、オスマン領へと進軍します。しかし、9月26日にマリツァ河畔でオスマン軍と激突した連合軍は、ララ・シャヒーン・パシャ率いるオスマン軍の奇襲を受け、大敗を喫します（マリツァの戦い）。ヴカシン自身もこの戦いで命を落としました。

家族

ヴカシンは妻イェレナとの間に、少なくとも5人の子供をもうけました。

マルコ
Andrijaš
Dmitar
Ivaniš
* Olivera

ヴカシンの死後、彼の息子たちはセルビアの政治情勢に大きな影響を与えました。特にマルコは、「マルコ王」としてセルビアの伝説的な英雄となり、多くの民話や叙事詩にその名が語り継がれています。

ヴカシン・ムルニャヴチェヴィチは、セルビア帝国の衰退期に現れた、野心的な地方領主でした。彼はセルビアの王位を簒奪し、オスマン帝国との戦いに身を投じましたが、その短い統治は、バルカン半島の激動の時代を象徴するものとして、歴史に刻まれています。

もう一度検索