一柳直興

一柳直興（ひとつやなぎなおおき）：波乱に満ちた伊予西条藩主の生涯

一柳直興は、江戸時代前期の大名であり、伊予西条藩の第3代藩主を務めました。しかし、その治世は長くは続かず、職務怠慢や失政を理由に改易され、加賀藩の前田家に預けられるという、波乱に満ちた生涯を送りました。

生涯

前半生・西条藩主時代

寛永元年（1624年）、一柳直重（のちの西条藩第2代藩主）の長男として伊勢国神戸に生まれました。寛永15年（1638年）には徳川家光に初めて謁見しています。

正保2年（1645年）12月1日、父の死去により家督を継ぎ、西条藩の第3代藩主となりました。しかし、この時、5000石を弟の直照に分与したため、西条藩の石高は2万5000石となっています。正保3年（1646年）12月30日には従五位下に叙され、監物と称しました。寛文4年（1664年）4月5日には、徳川家綱より領知朱印状を受けています。

寛文3年（1663年）には、真鍋次郎兵衛ら4名の藩士が、直興を諫めるために切腹するという事件が起きました。西条市の常福寺には「忠烈四子之碑」があり、この4人を記念しています。

寛文4年（1664年）には、領内の新居郡にある「五か山」と呼ばれる5つの村から、租税をめぐる血判嘆願状が提出されました。この地域の租税問題は、加藤嘉明が領主であった慶長8年（1603年）から続いていたもので、山岳地帯では物納（米納など）が過酷であるため、銀納とすることを村民が要望していました。しかし、直興はそれまで認められていた銀納を物納に変更し、さらに新たな雑税を課したとされています。これに対し、藩は「騒動」の首謀者として中奥山村庄屋の工藤治兵衛（治平）とその家族や与同者合わせて16名を捕らえ、斬罪に処しました（銀納事件、大保木山騒動）。

改易と金沢での生活

寛文5年（1665年）7月29日、職務怠慢や失政などが咎められ、直興は改易されることとなりました。身柄は加賀藩の前田綱紀に預けられました。

『寛政重修諸家譜』には、改易の理由として以下の点が挙げられています。

寛文元年（1661年）、直興は幕命により禁裏造営の助役に任じられたが、竣工時に京都にいるよう命じられていたにもかかわらず、入洛が竣工後、天皇がすでに禁裏に入った後になった。
病気のために参勤交代の遅滞が生じたが、その届け出が遅れ、しかもその後病状を老中に報告しなかった。
藩政において失政があった（封内の政事よからず）。
好色にして無作法であるとの風聞があった。

加賀藩は浅井政右を派遣して評定所で直興の身柄を受け取り、厳重な警護のもと護送された直興は10月に金沢に入りました。金沢郊外の広岡村（現在の金沢市広岡）には、直興の住居として堀を巡らせた厳重な施設が設けられました。しかし、前田綱紀は直興を優遇し、帯刀を許し、100人扶持を与え、旧西条藩から来た者を仕えさせ、物資の補給や警護も丁重に配慮したとされています。また、綱紀は直興の赦免について幕閣や要路に働きかけました。

赦免から死まで

処分から22年が経過した貞享3年（1686年）6月26日、直興は赦免されました。幕府からは、配所にあっても従者を召し使うことが許されました。これは、綱紀が幕閣と交渉を重ね、加賀藩内（能登の幕府代官所、富山・大聖寺の両支藩を除く）の居住、男女を問わず従者の使役が自由であること、もしも子女が生まれても問題視しないということを認めさせたものでした。直興は大いに喜んだと伝えられています。

赦免時、直興は眼疾により失明していたと言われていますが、その後も長寿を保ちました。元禄15年（1702年）8月3日、金沢において死去、享年79。金沢城下の高巌寺で葬儀が行われ、野田山に葬られ、高巌寺に遺髪塚が設けられました。

直興の葬儀後、居宅は破却され、使用人も退去しましたが、西条から直興に付き従った遺臣は、請願によって加賀藩に仕えることが認められました。

人物・逸話

直興は、失政を理由に改易された人物ですが、加賀藩側の記録は直興に対して好意的です。

また、尊王思想が称揚された昭和戦前期の著作では、直興は尊王家であり、朝廷に対する仕事を立派にしすぎたために幕府に睨まれ、言いがかりをつけられて改易されたのだ、という主張も展開されています。

西条の「忠烈四子之碑」には直興の「無道」が記されていますが、建碑は後年であり、碑文の記述にも矛盾があるため、碑文をそのまま事実と見てよいかは慎重であるべきだという意見もあります。

一柳家の菩提寺である金地院と、葬儀が行われた高巌寺はともに臨済宗です。延宝5年（1677年）の大火の際、直興が高巌寺に避難し、この時に住職の普門和尚と葬儀について約束したことから、この寺で葬儀が行われることになったと伝えられています。高巌寺には、直興遺愛の紅梅が現存しています。

直興には金沢で落胤を儲けたとする説があり、直興の死後加賀藩に仕えた崎田市三郎・斎藤八之丞には直興の落胤との説がありますが、一方で市三郎・八之丞には落胤の子女を養子あるいは妻として与えたとする説もあって、はっきりしていません。

このように、一柳直興は、藩主としての失政により改易されたものの、その後の金沢での生活や人物像については様々な逸話が残されており、興味深い人物と言えるでしょう。

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