一江山島戦役

一江山島戦役：台湾海峡の転換点

一江山島戦役は、1955年1月18日から20日にかけて、中国人民解放軍が中華民国（台湾）が支配していた浙江省の一江山島に侵攻した戦闘です。この戦いは、国共内戦後の台湾を巡る緊張が高まる中で勃発し、その後の東アジア情勢に大きな影響を与えました。

戦争の背景

国共内戦の結果、1949年に中国国民党率いる中華民国政府は中国大陸を失い、台湾へと拠点を移しました。しかし、沿岸部の一部島嶼では共産党勢力に対抗し、ゲリラ戦術を展開していました。1950年には、舟山群島や海南島が人民解放軍に奪取され、国民党は台湾と一部の島嶼のみを維持する状況となりました。

朝鮮戦争の勃発により、人民解放軍は台湾への軍事行動を一時停止しましたが、国民党も反撃を試みたものの、大陸反攻の足がかりを築くには至りませんでした。アメリカは当初、中国の内戦に不干渉の立場でしたが、朝鮮戦争を機に台湾を中立化し、第7艦隊を派遣して実質的に保護することになりました。その後、アメリカは軍事援助を再開しましたが、台湾防衛に関する責任は避け続けました。

1953年、アイゼンハワー政権が誕生すると、台湾の中立化が解除され、国民党の軍事行動が認められました。しかし、東山島戦役での敗北を受け、共産党政権は台湾解放を再浮上させました。この間、人民解放軍はソ連からの兵器供与や旧日本軍の鹵獲兵器の整備を通じて軍事力を増強しました。

一方、アメリカ国内では、台湾との同盟が国共内戦に巻き込まれる懸念がありましたが、キャセイパシフィック航空機撃墜事件をきっかけに、反共世論が高まり、米華軍事同盟への機運が高まりました。

戦闘の経過

1954年5月、人民解放軍は海軍の支援を受け、高島、頭門山などの島嶼を占領し、中華民国空軍との間で空中戦が頻発しました。人民解放軍は制空権を掌握すると、これらの島に砲兵陣地や魚雷艇基地を設置し、金門島や馬祖島への砲撃を開始しました。国民党側も、空軍や海軍を投入し応戦しました。

11月からは、人民解放軍による一江山島や大陳島への爆撃が開始され、12月には、中華民国海軍の護衛駆逐艦「太平」が撃沈されました。一方、国民党はアメリカとの間で米華相互防衛条約を締結し、対抗姿勢を鮮明にしました。

1955年1月17日、人民解放軍は上陸部隊を出撃させ、翌18日に一江山島への上陸作戦を開始しました。3700名の上陸部隊に加え、護衛艦や砲艦、魚雷艇、揚陸艦など140隻以上の艦船、そして350機を超える航空機が投入されました。同日夕方、人民解放軍は一江山島の占領を宣言しました。

戦いの結果

一江山島の陥落により、大陳島は人民解放軍の砲撃射程内となり、制空権も失いました。アイゼンハワー大統領は、第7艦隊と第5空軍に中華民国軍の撤退支援を指示し、2月中旬までに大陳列島の中華民国軍と住民はアメリカ海軍の支援を受けて撤退しました。

一江山島戦役は、人民解放軍が初めて成功させた近代的な上陸作戦であり、国民党が維持してきた制海権を脅かす存在になったことを示しました。この戦いは、その後の台湾海峡の緊張をさらに高め、両岸関係における重要な転換点となりました。

この戦いは、現代中国海軍の発展を促す契機となり、台湾海峡におけるパワーバランスを大きく変化させることになったのです。

参考資料

平松茂雄『台湾問題　中国と米国の軍事的確執』勁草書房、2005年1月。ISBN 4-326-35135-7。
平松茂雄『甦る中国海軍』勁草書房、1991年11月。ISBN 4-326-30072-8。
* 毛里一『台湾海峡紛争と尖閣諸島問題』彩流社、2013年3月。ISBN 978-4-7791-1884-5。

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