一畑電気鉄道80系電車

一畑電気鉄道80系電車は、かつて一畑電気鉄道（現・一畑電車）で活躍した通勤形電車です。1981年から1982年にかけて、西武鉄道から451系電車を譲り受け、導入されました。本項では、80系と同様に西武鉄道からの譲渡車両である90系電車（元551系電車）、および90系より別形式へ区分されたデハ60形電車（2代）についても併せて解説します。

概要

1982年9月に開催された第37回国民体育大会（くにびき国体）に合わせ、観客輸送のため北松江線の車両近代化が計画されました。当時、西武鉄道では冷房付きカルダン駆動車の導入が進み、451系電車の廃車が進んでいました。しかし、451系は廃車当時、比較的状態が良好であったため、一畑電気鉄道はこれらを譲り受け、老朽化した従来車の置き換えを図りました。

西武451系には6両固定編成と2両固定編成がありましたが、一畑電気鉄道が導入したのは2両固定編成でした。制御電動車のクモハ451形と制御車のクハ1471形からなる3編成が導入され、それぞれデハ80形81 - 83とクハ180形181 - 183に改称・改番されました。これにより、末尾番号が同じ制御電動車と制御車の組み合わせで2両固定編成が組成されました。

1985年3月には、同じく西武から551系クモハ551形560とクハ1651形1661が譲渡され、翌1986年3月にはクモハ551形552・554が譲渡されました。前者はデハ90形91とクハ190形191となり、80系と同様に2両固定編成を組成しました。後者は、日中の閑散時や増結運用を目的として、導入前に西武所沢車両工場で両運転台化改造が施され、デハ90形92・93として導入された後、1986年度中にデハ60形（2代）61・62として別形式に区分されました。

各編成（デハ60形は各車両）には、北松江線沿線にちなんだ固有の愛称が付けられ、前面に愛称表示板が設置されました。

これらの車両は北松江線の主力として活躍しましたが、後年、後継車両の導入に伴い、80系・90系は1996年に、デハ60形は2006年にそれぞれ形式消滅しました。

車体

各形式とも全長20,000mmの全金属製車体を採用していますが、種車の違いから前面形状が異なっています。80系は切妻型の3枚窓構造であるのに対し、90系とデハ60形は湘南型と呼ばれる折妻傾斜型の2枚窓構造です。

客用扉は、一畑電気鉄道初の両開き扉（有効幅1,300mm）を採用しています。しかし、デハ90形91およびデハ60形61・62はアルミハニカム構造で扉窓が金属枠固定であるのに対し、80系およびクハ190形191は鋼製で扉窓がHゴム固定となっており、ここにも種車の違いが見られます。

デハ60形61・62は、導入時に両運転台化改造が施されており、旧連結面の一部を切断し、西武在籍時の編成相手だったクモハ553・551の運転台部分を接合する形で改造されました。

側面窓配置は、片運転台構造の80系と90系がd1(1)D(1)2 2(1)D(1)2 2(1)D(1)2（d：乗務員扉、D：客用扉、各数値は側窓の枚数、カッコ内数値は戸袋窓を示す）であるのに対し、両運転台構造のデハ60形はd1(1)D(1)2 2(1)D(1)2 2(1)D(1)1dとなっています。

車内はロングシートで、蛍光灯照明が用いられています。また、車内送風機として扇風機が各車7基ずつ搭載されています。

これらの仕様は西武在籍当時のものがほぼそのままですが、一畑電気鉄道への導入に際して、車体塗装は黄色地に青帯の一畑電気鉄道標準塗装に変更され、各先頭車前面には愛称表示板受けが新設されました。また、デハ82・83（元西武クモハ452・454）のガーランド型ベンチレーターはグローブ型に交換され、前面窓内側の行先表示機は一畑電気鉄道仕様に変更されました。

主要機器

主要機器は、譲渡に伴い不要となった西武形ATSと列車無線が撤去された以外は、西武在籍時とほぼ変わりありません。多くは戦後から1960年代前半にかけて西武鉄道で多用された鉄道省制式の旧式な機器です。

制御装置

電空カム軸式の自動加速制御装置CS5と、弱め界磁接触器CS9を併用しています。直列5段・並列4段の抵抗制御に加え、弱め界磁制御（1段）も行います。

主電動機

直流直巻整流子電動機MT15E（定格出力100kW）を電動車1両あたり4基搭載しています。駆動方式は吊り掛け式で、歯車比は2.52です。

台車

電動車のデハ80形・デハ90形・デハ60形は釣り合い梁式台車TR14Aを、制御車のクハ180形・クハ190形はTR11Aを装着しています。デハ61・62は、西武時代に住友金属工業製のペデスタル式空気ばね台車FS40を装着していましたが、譲渡時にTR14A台車に交換され、仕様が統一されました。

制動装置

A弁を使用したAMAE/ACAE電磁自動空気ブレーキを採用しています。

補助機器

電動発電機MH77-DM43（定格出力3kW）と電動空気圧縮機MH16B-AK3（定格吐出量990L/min）は、80系・90系では西武在籍時と同様に制御車に搭載されていましたが、両運転台構造のデハ60形はこれらの機器を自車に搭載したため、重量が増加しました。連結器は密着連結器で、電気連結器もそのまま譲渡され、増解結時の作業性向上に貢献しました。

導入後の変遷

導入後、編成愛称表示板が撤去された以外、大きな改造は行われませんでした。80系・90系は20m級車体を生かして北松江線の主力として活躍し、デハ60形は日中の閑散時や増結用として運用されました。

1993年に発表された一畑電気鉄道の「経営改善5ヵ年計画」に基づき、老朽化した車両の置き換えが決定しました。1994年以降、2100系（元京王5000系）や3000系（元南海21000系）の導入が進み、80系デハ82-クハ182編成とデハ83-クハ183編成は1995年12月31日付で、80系デハ81-クハ181編成と90系デハ91-クハ191編成は1996年12月31日付で廃車となり、80系と90系は全廃となりました。

デハ60形61・62は予備車として残存しましたが、2006年10月31日付で除籍・解体され、西武鉄道から譲渡された20m級車両は全て形式消滅しました。これにより、2016年に7000系が導入されるまで、一畑電気鉄道から20m級車両は一時的に姿を消すこととなりました。

車歴

（詳細な車歴は参考文献を参照）

参考文献

吉川文夫・廣田尚敬『ヤマケイ私鉄ハンドブック6 西武』 1982年9月 ISBN 4-635-06118-3
寺田裕一『日本のローカル私鉄』企画室ネコ 1990年7月 ISBN 4-87366-064-5
町田浩一『復刻版私鉄の車両6 西武鉄道』ネコ・パブリッシング 2002年7月 ISBN 4-87366-289-3
島根県立古代出雲歴史博物館編集『BATADEN 一畑電車百年ものがたり』一畑電気鉄道 2010年 ISBN 978-4-9901229-1-1
『レイルマガジン』企画社ネコ
寺田裕一「ローカル私鉄独り歩き9 Lake Side Story -宍道湖の一畑電鉄-」 1985年2月（通巻13）号 pp.40 - 47
『鉄道ピクトリアル』鉄道図書刊行会
鈴木大地「神話の国にベテラン電車を訪ねて - 一畑電気鉄道」 1992年2月（通巻555）号 pp.66 - 71
園田政雄「西武鉄道時代を築いた電車たち」 1992年5月（通巻560）号 pp.150 - 160
小松丘・大山俊行・高橋健一「他社へ譲渡された西武鉄道の車両」 1992年5月（通巻560）号 pp.217 - 236
岡崎利生「西武所沢車両工場出身の電車たち（譲渡車両の現況）」 2002年4月（通巻716）号 pp.214 - 223
「新車年鑑 1996年版」 1996年10月（通巻628）号
「新車年鑑 1997年版」 1997年10月（通巻644）号
「鉄道車両年鑑 2007年版」 2007年10月（通巻795）号
『鉄道ジャーナル』鉄道ジャーナル社
種村直樹「再生めざす一畑電車」 1994年5月（通巻331）号 pp.63 - 72

一畑電気鉄道80系電車