一目上がり

一目上がり（七福神、軸ほめ）

古典落語の演目の一つである「一目上がり」は、「七福神」「軸ほめ」とも呼ばれ、無教養な男の厚かましさをユーモラスに描いた噺です。一般的には前座噺として演じられますが、真打も好んで手がける人気の演目です。

あらすじ

長屋に住む職人が、ひょんなことから隠居宅の床の間に飾られた掛け軸に興味を持ちます。そこには『雪折笹』の絵とともに、「しなわるるだけはこたえよ 雪の笹」という句が書かれていました。隠居は、この句には雪の重みに耐える笹のように、苦難に耐え忍ぶことの大切さが込められていると説明します。それを聞いたお調子者の職人は、この受け売りの知識を披露して周囲を見返そうと企みます。

まず、大家の家で「近江の鷺は見がたし、遠樹の鴉見やすし」と書かれた掛け軸を目にした職人は、得意げに「結構なサンでございますな」と言い放ちます。しかし、これは根岸の蓮斉先生の「詩（シ）」だと指摘され、失敗に終わります。次に医者の家で「仏は法を売り、祖師は仏を売り、末世の僧は祖師を売る。汝五尺の身体を売りて、一切衆生の煩悩を済度す。柳は緑、花は紅の色いろ香。池の面に月は夜な夜な通へども水も濁さず影も止めず」と書かれた掛け軸を見て、再び「結構なシでございますな」と口にしますが、これは一休禅師の「悟（ゴ）」だと諭されます。

二度の失敗から、「サン、シ、ゴ」と続くことを予想した職人は、友人の家で「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな」という回文の歌が添えられた七福神の絵を前に、「結構なロクですなぁ！」と先走ります。しかし、友人に七福神の宝船だと指摘され、またもや失敗。最後に、別の家で「古池や 蛙飛び込む 水の音」という芭蕉の句を見て、「結構なハチで」と口走ります。

落ちのパターン

この噺にはいくつかの落ちのパターンがあり、元々は「七」を「質」にかけて落とすものが多かったようです。しかし、今日では多くの演者が「七福神」で落とす形を採用しています。七福神で締めくくることで、めでたい席にもふさわしい噺として喜ばれます。また、芭蕉の句で終わらせるパターンは、サゲとして弱いという意見もあります。

演目の特徴

「賛」「詩」「悟」を数字の音と結びつけ、「六」をどう処理するのかと思わせた上で七福神で落とすという構成に面白さがあります。頓知話のようなユーモラスな要素の中に、風流や文人趣味といった奥深さが感じられる作品です。演者には書画骨董に関する知識や、難しい言葉をわかりやすく説明する能力が求められるため、前座噺でありながらも演じるには高い力量が必要です。

作中の「シ」について

「仁に遠き者は道に疎く　苦しまざる者は智に于し」という漢文を引用する演者もいます。これは「おにはそと　ふくはうち」とも読める言葉遊びとなっています。

得意とする演者

三笑亭夢楽がこの噺を得意としていました。また、3代目三遊亭金馬は、わかりやすい語り口でこの噺の人気を高めたと評価されています。5代目柳家小さん、5代目古今亭志ん生、6代目春風亭柳橋といった大真打もこの噺を手がけています。

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