七卿落ち

七卿落ち：尊王攘夷派の激動と明治維新への道

1863年（文久3年）、日本の歴史の転換期において、大きな事件が起きました。八月十八日の政変です。この政変によって、尊王攘夷運動の中心人物であった7人の公家が京都から追放されるという、七卿落事件が発生しました。

この事件の中心人物は、三条実美、三条西季知、四条隆謌、東久世通禧、壬生基修、錦小路頼徳、そして澤宣嘉の7名です。彼らは薩摩藩や会津藩といった公武合体派の勢力によって、政治の中枢から排除されたのです。彼らは、朝廷中心の政治体制を理想とし、外国勢力排除を主張する尊王攘夷派の急先鋒でした。その立場ゆえに、公武合体派の台頭と、それに伴う政治路線の変更は、彼らの存在そのものを脅かすものだったのです。

京都を追われた7名は、長州藩の庇護の下、長州藩へと逃れました。彼らの官位は剥奪され、諱も改めさせられました。三条実美は「実」、三条西季知は「知」、四条隆謌は「謌」、東久世通禧は「通」、壬生基修は「修」、錦小路頼徳は「頼」、澤宣嘉は「宣」と改名させられたのです。長州藩兵の護衛を受け、一行は海路を辿り、長州を目指しました。しかし、悪天候により予定を変更。一部は徳山港に上陸し、陸路で三田尻港（現在の山口県防府市）へと向かいました。

長州藩に身を寄せた7名ですが、その後も困難な状況は続きます。錦小路頼徳は1864年（元治元年）に病没。澤宣嘉は生野の変で挙兵した後、四国に逃れ、その後長州へと戻りました。残りの五卿は、第一次長州征伐後には筑前国太宰府（現在の福岡県太宰府市）へと移されました。

彼らが長州に滞在した期間は、決して平穏なものではありませんでした。幾多の困難と危険に晒されながらも、彼らは理想を捨てずに、時勢を見極めながら、次の行動を模索していたと考えられます。

そして、1867年（慶応3年）、歴史的な転換点が訪れます。王政復古の大号令です。この大号令の前夜、朝廷において彼らの赦免が決定されました。官位と諱が回復され、彼らは再び政治の中枢に立つことになったのです。

明治維新後、七卿はそれぞれ要職に就き、日本の近代化に大きく貢献しました。澤宣嘉は外務卿、三条実美は太政大臣や内大臣、三条西季知は参与や神宮祭主、東久世通禧は枢密院副議長や貴族院副議長などを歴任しました。彼らの経験と手腕は、新たな日本の建設に不可欠なものだったのです。

七卿落ちは、単なる追放事件ではありません。幕末期の激しい政治闘争を象徴する出来事であり、明治維新へと続く重要な転換点でした。彼らの苦難と、その後の活躍は、日本の近代化への道のりを示す、重要な歴史的教訓となっています。

なお、七卿の足取りを示す史跡が各地に残されています。広島県呉市の大崎下島御手洗地区には、上京の途にあった五卿が一夜を過ごした屋敷跡が保存されています。山口県下関市の桜山神社には、五卿が参拝したことを記念する碑があり、徳山港には彼らの上陸を記念する碑も建てられています。また、三条実美らが明治維新まで滞在した太宰府天満宮の延寿王院も、歴史的建造物として重要な位置を占めています。これらの史跡は、七卿落ちの歴史を今に伝える貴重な証となっています。

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