万国電信連合

万国電信連合の誕生と発展

万国電信連合（Union internationale du télégraphe, International Telegraph Union）は、1865年 5月17日にフランスのパリで設立された、電信に関する国際的な連合体です。その本部はスイスのベルンに置かれ、しばしば世界最古の国際機関とみなされています。この組織は、現在の国際連合の専門機関である国際電気通信連合（ITU）の前身にあたります。

前史：電信技術の発展と国際連携の必要性

1834年にアメリカのサミュエル・モールスによって電信機が発明された後、1837年にはイギリスで鉄道沿線での有線電信が実用化されました。アメリカでも1845年にワシントンD.C.とボルティモアを結ぶ電信線路が建設されるなど、電信技術は急速に発展しました。初の国際電信は、1849年にプロイセン王国とオーストリア帝国間で締結された電信条約に基づき開始されました。

万国電信連合の前身となる組織として、1850年 7月25日にドレスデンで発足したドイツ＝オーストリア電信連合と、1855年6月にパリで発足した西部欧州電信連合の二つが存在しました。前者は、ゾーン制の料金体系を採用し、国際電信は距離と語数による従量制を採用しました。後者は、1851年のフランスとベルギーの相互接続条約が基盤となっており、1855年の加盟5か国に加えて、1857年にはポルトガルとオランダ、1860年にはバチカン市国とシチリア王国が加盟しました。西部欧州電信連合は、1858年9月のベルン会議でドイツ＝オーストリア電信連合を招待しましたが、参加は実現しませんでした。

しかし、国際電信ルールの整備は進められ、1858年6月にはベルギー、フランス、プロイセンがブリュッセルで条約を締結。この条約には、オーストリア、ヴュルテンベルク王国、バーデン大公国を含む11カ国が参加しました。二つの組織は、1865年3月1日にパリで正式に発足が決定し、万国電信連合として5月7日に設立されました。これにより、ドイツ＝オーストリア電信連合は1871年に活動を停止しました。

また、国際海底電信は、1850年にドーバー海峡にイギリス・フランス間の海底ケーブルが敷設されたのが始まりで、欧米大陸間では1858年に最初の大西洋横断電信ケーブルが敷設されました。実用可能なものとしては、1866年に敷設されたものが知られています。

万国電信連合の概要

万国電信連合には、オーストリア、バーデン、バイエルン王国、ベルギー、デンマーク、フランス、ギリシャ王国、自由ハンザ都市ハンブルク、ハノーファー王国、イタリア王国、オランダ、ポルトガル、プロイセン、ロシア帝国、ザクセン王国、スペイン、スウェーデン＝ノルウェー連合王国、スイス、トルコ（オスマン帝国）、ヴュルテンベルクの20か国が参加しました。イギリスは電信事業が民営であるという理由から招待されませんでした。

料金体系は、西部欧州電信連合から引き継いだ均一料金が採用され、フランスが連合を主導したため決済はフランス・フランで行われました。1868年にウィーンで開かれた会議では、ペルシア（ガージャール朝）とイギリス領インド帝国も参加しました。スイスのベルンに事務局が設置され、国際電信に関する情報の収集・通知がフランス語で行われることになりました。予算は加盟国の拠出によって賄われ、各国の負担額は株式のような単位に基づき決定されました。このシステムは、現在の国際電気通信連合でも使用されています。

1871年のローマ会議からは日本がオブザーバーとして参加し、この会議では、企業体の参加が広く認められました。これは電信ケーブルの大部分が私企業に保有されているという実態を踏まえた措置でした。英蘭2か国は企業の無制限参加を主張しましたが、ロシアとフランスは全権会議への参加を制限する考えでした。結果として、8対9の僅差で企業の無制限参加が認められました。

1875年のサンクトペテルブルク会議では、国際協定において通信の秘密が保障される一方で、国家安全保障や公序良俗に脅威となる場合は電信を差し止めることができるという例外規定も設けられました。アメリカ合衆国は参加を辞退しましたが、ウエスタンユニオンとアメリカ郵便電信会社は協定を私的に遵守しました。

国際電気通信連合への発展

1894年、イタリアのグリエルモ・マルコーニが無線通信実験に成功し、1897年にはマルコーニ無線電信会社が設立され、無線の時代が到来しました。20世紀に入ると、イギリスは大英帝国内の植民地と本国を直接結ぶために無線を重用し、船舶間通信手段としても活用しました。イギリスとイタリアの海軍はマルコーニの仕様のみを利用しました。これに対し、ドイツでは1903年にシーメンスとAEGが合弁し、テレフンケンを設立して無線技術の開発を進めました。アメリカの発明家、リー・ド・フォレストもまた無線技術の発展に貢献しました。

イギリス、イタリア以外の列強はマルコーニの市場独占を打破したいと考えており、テレフンケンとフォレストは後に提携しました。一方で、混信問題が生じたため、1903年には9か国がベルリンで会議を開催し、1906年にはベルリンで万国無線電信会議が開かれ、SOSが遭難信号に採用されました。1908年には、日本を含む30か国が参加して国際無線電信連合が発足しました。

第二次世界大戦後の1947年、万国電信連合と国際無線電信連合が統合し、現在の国際電気通信連合（ITU）が発足しました。

万国電信連合は、国際的な通信技術の発展と協調の基礎を築いた重要な機関であり、その歴史は現代の国際電気通信連合へと引き継がれています。

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