万葉公園 (湯河原町)

神奈川県足柄下郡湯河原町の宮上に広がる万葉公園は、湯河原温泉をテーマに整備された、地域に親しまれる町営の都市公園（近隣公園）です。日本の歴史公園100選にも選定されており、温泉街の中心部「温泉場」地区に位置しています。

この公園は、千歳川と藤木川が合流する地点の近くから、千歳川沿いに沿って約2万平方メートルの細長い敷地に広がっています。緑豊かな空間で、入園は無料です。

公園の歴史は古く、元々はこの地にあった熊野神社に由来する「権現山公園」と、実業家・大倉孫兵衛（大倉陶園創業者）の別荘地を譲り受けた「大倉公園」が並んでいました。大倉氏の別荘は、日露戦争後には戦傷病者のための養生園としても開かれ、東郷平八郎などもここで静養した記録があります。1951年（昭和26年）、国文学者で和歌研究家の佐佐木信綱の提案により、これらの公園が統合・改称され、「万葉公園」として新たな歴史を刻み始めました。

「万葉公園」という名は、湯河原温泉が『万葉集』に登場する唯一の温泉地であることにちなんでいます。「足柄の土肥の河内に出づる湯の 世にもたよらに子ろが言はなくに」と詠まれた歌を記念し、園内には『万葉集』にゆかりのある草木が植えられているほか、歌碑や文学碑などが点在しています。

近年、公園は大きな変貌を遂げました。2020年（令和2年）4月からは、Park-PFI制度を活用した約1年に及ぶ大規模な全面リニューアル工事が実施され、2021年（令和3年）に新たな観光施設「湯河原惣湯(Books and Retreat)」が誕生しました。同年4月29日に「玄関テラス」、8月31日に「惣湯テラス」がそれぞれオープンし、公園の魅力がさらに高められています。

園内には多様な施設が配置されています。

湯河原惣湯(Books and Retreat): 旧湯河原観光会館と独歩の湯の跡地に新設された中核施設です。
玄関テラス: 藤木川にかかる万葉橋を渡ってすぐの入口付近にあります。旧観光会館の機能を継承し、観光案内所やカフェ（テイクアウト）、コワーキングスペース、足湯などを無料で利用できます（一部施設を除く）。
惣湯テラス: 公園の奥まった場所にある日帰り温泉施設です。旧独歩の湯の跡地で、温泉、サウナ、ダイニング、ライブラリーなどが利用できます（有料、時間制）。
茶室 万葉亭: 東側入口近くにある数寄屋造りの茶室で、建築家・堀口捨己の設計です。抹茶と菓子を楽しむことができます。
太子堂: 1960年（昭和35年）に建立された、奈良法隆寺の夢殿を模した建物です。建立の由来を記した碑文は作家・山本有三が手掛けています。
源泉手水: 温泉地の公園らしい施設です。

また、園内には歴史や文学に関連する見どころが豊富です。

神社: 湯の守護神として信仰される熊野神社（湯権現）と、傷ついた狸が温泉で癒された故事にちなむ狸福神社があります。
歌碑・顕彰碑: 公園名の由来となった『万葉集』の歌が刻まれた万葉の歌碑（佐佐木信綱撰、竹内栖鳳筆）、養生園で静養した東郷平八郎の感謝文を記した養生園の碑、俳人・金尾梅の門の句碑、そして作家・国木田独歩の作品『湯ヶ原ゆき』の一節が刻まれた国木田独歩の碑などがあります。

園内には月夜広場、万葉広場、花木園といった広場があり、散策路としては、内陸を通る「文学の小径」や千歳川沿いの「渓流散策路」などがあり、多様な景観を楽しめます。

かつて公園の主要施設だった湯河原観光会館と、大規模な足湯施設として親しまれた独歩の湯は、リニューアルにより湯河原惣湯の一部として生まれ変わりました。

公園では年間を通じて様々なイベントが開催されます。毎週日曜日の観光朝市をはじめ、5月の湯かけまつり、6月のほたるの宴や花菖蒲展、8月の納涼盆踊り大会、9月の観月会などが開催され、多くの人で賑わいます。

公園周辺には、二・二六事件の現場として知られる光風荘や日帰り温泉施設こごめの湯、伊豆湯河原温泉地区の泉公園など、関連する施設が点在しており、湯河原温泉郷の散策拠点としても最適です。

このように万葉公園は、万葉の時代から続く温泉の歴史、文学、豊かな自然、そして現代的な施設が融合した、湯河原を代表する憩いの空間となっています。

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